最高速度310km/hのSUVに秘められた控えめなセンスとは? 3290万円の新型アストンマーティンDBX707は驚異の1台だった!!!
アストンマーティンの「DBX707」の魅力を、大谷達也が考えた! 【写真を見る】超豪華でスーパーな新型DBX707の内外装(92枚)
タイムレスな美しさ
街でアストンマーティンDBXとすれ違うと、知らず知らずのうちにその姿を目で追ってしまう。バランスのとれたプロポーション、有機的な曲線で構成されたスタイリング、そしてSUVなのに“いかつい”気配が一切感じられないその佇まいに、つい心を惹かれてしまうからだ。 私がDBXと初めて対面したのは、まだ正式発売前だった2019年12月のこと。ごく限られた数のメディア関係者がそのプロタイプに試乗できるとのことで、たったひとり、中東のオマーンまで旅したときだった。 ここで出会ったDBXプロトタイプは、オフロードテスト中だったために全身ホコリまみれだったけれど、ひと目見ただけで心奪われたデザインの印象は、4年経ったいまもまったく変わらない。イギリス人はタイムレス(「(時が過ぎても)色あせない」「時を超越した」の意味)という言葉が好きだけれど、DBXにはまさにこのタイムレスな美しさがあると思う。 オマーンで乗ったDBXプロトタイプは、クルマのフロントセクションの作りが驚くほど強靱で、このためステアリングを通じて路面の感触が克明に伝わってくる点がSUVとしては新鮮だった。それは、タイヤからドライバーまでの距離が遠く離れたSUVというよりも、走ることだけのために作られたコンパクトなスポーツカーに近い感触だった。 そういえば、当時DBXの開発を指揮していたマット・ベッカーは、アストンマーティンのチーフエンジニアに就任するまで、長年ロータスでスポーツカー開発に携わっていた人物。そんな彼の経歴が、DBXのクルマづくりにも何らかの影響を及ぼしたのかもしれない。
このうえない安心感
いっぽう、今回、私がステアリングを握っていたのは、DBXの高性能版にあたるDBX707である。DBXに搭載されたメルセデスAMG製V8 4.0リッター・ツインターボエンジンの最高出力をスタンダードの550psからモデル名と同じ707psまで引き上げるとともに、駆動系や足まわりもこれに見合った性能のものに置き換えた“世界最速SUV”の1台といって差し支えのないモデルである。 ちなみに、最高出力707psと中途半端な数字にしたのは、アストンマーティンとは切っても切れない関係にある映画『007シリーズ』のイメージを引き継ぐためだったそうだ。 それでも、このDBX707は、街中で乗っても足まわりからゴツゴツとした印象が伝わってくることがほとんどない。もちろん、スタンダードなDBXに比べれば乗り心地ははるかにずっしりとしていて重厚だけれど、最高速度が310km/hにも達するハイパフォーマンスSUVとは思えないくらい快適であることは間違いない。 それとともに驚かされるのがワインディングロードでのハンドリングである。たとえばコーナーに進入する際のローリング(遠心力でクルマのボディが傾くこと)は、一般的なSUVのようにボディから遠く離れたところを中心にしてボディが傾くというよりも、腰の真下に回転軸があるような感覚で、実に小気味がいい動きを見せる。おかげでボディの重みが4本のタイヤでしっかりと支えられる姿勢となり、ドライバーにこのうえない安心感をもたらしてくれるのだ。