グッチ、ラルフ・ローレンが参入、ラグジュアリー業界は、なぜメタバースに注目するのか
コロナ禍で深刻なダメージを受けたのはラグジュアリー業界も例外ではない。しかし、伝統とイノベーションを結束することで復活し、LVMHをはじめとする大手ラグジュアリーグループは、コロナ前の2019年を上回る回復力を発揮した。本連載では、『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』(イヴ・アナニア、イザベル・ミュスニク、フィリップ・ゲヨシェ著/鈴木智子監訳/名取祥子訳/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。ラグジュアリーブランドのキーパーソン35人の証言やマネジメントに関する優良な経験値を通じ、先が見えない時代の予測と危機への対応のヒントを探る。 第6回目は、ラグジュアリーブランドが熱い期待を寄せるメタバースの可能性を解説する。 モルガン・スタンレーが2021年11月に発表したレポートによると、メタバースは2030年までにラグジュアリー市場に500億ドルもの追加の収益をもたらすとあり、次のように分析する。 「ラグジュアリーブランドがデジタルメディア経由で得た収益は、現時点では微々たるものだが(中略)こうした状況は変わろうとしている。メタバースの発展には何年もの歳月がかかるだろうが、NFTやソーシャルゲーム(アバター参加型のオンラインゲームやバーチャルコンサートなど)は、短期的に見ても大きなチャンスになると考えられる」 そのうえでモルガン・スタンレーは、NFTやソーシャルゲームによって今後8年の間にラグジュアリーブランドの潜在市場が10%以上拡大し、ラグジュアリーブランド業界は税引き前利益を約25%伸ばせると予測する。「ラグジュアリー業界全体がメタバース時代到来の恩恵を受けるだろう。また、『ソフトラグジュアリーブランド』(プレタポルテ、レザーグッズ、靴など)は、『ハードラグジュアリーブランド』(ジュエリーと時計)よりも有利な立場にある」と指摘した。 2021年末のもう一つの重要な現象としては、「ディセントラランド(Decentraland)」や「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」などのブロックチェーン技術を基盤としたVRプラットフォーム上で、NFTの価格が急騰したことが挙げられる。2021年11月末までに、これらのプラットフォームに対する投資額の累計は約1億600万ドルにのぼる。 パリを拠点とするラグジュアリー&デジタルエージェンシー「バリスティック・アート(BalistikArt)」の共同創業者であるステファン・ガリエーニは、「ウェブ3.0と呼ばれるブロックチェーン技術を活用するネットワークに投資した人々は、大手ラグジュアリーブランドを受け入れるための『バーチャルショッピングモール』までつくり上げてしまった」と指摘する。ガリエーニは、NFTとメタバースに関する論文を2本執筆している、この分野の専門家でもある。 ラグジュアリーブランドがメタバースという新しい世界で自らのポジションを確立するには、メタバースに参入する意味を明確にすると同時に、ブランドのDNAを守り続けることが課題となる。 セルフリッジズは、2022年1月にメタバースへの参入を試みた。南仏エクス・アン・プロヴァンスのヴァザルリ財団美術館とパコ ラバンヌとタッグを組み、ファッションとアート、販売、劇場、NFTが一つの空間で体験できる「ユニバース」というスペースを立ち上げたのである。今後は、このスペースを訪れる人が仮想通貨の他、普段のクレジットカードでも支払いができるように改善するという。