大勝負「650億円買収」のそーせい、辣腕トップが語る勝算
そーせいグループのクリス・カーギルCEOは、今回の買収で発売済みや間近の製品を獲得できることに加え、「後期開発や販売のチームを手に入れた」ことが大きいと強調した。インタビューは8月10日に行った(写真:今井康一)
日本を代表する創薬ベンチャー、そーせいグループ(4565)が大勝負に打って出た。7月20日、スイスの上場製薬企業イドルシアの日本法人(IPJ)と韓国法人(IPK)の全株式を取得し、イドルシアの日本・韓国を含むアジアパシフィック(APAC、ただし中国は除く)地域の事業を買収したのだ。買収額はなんと650億円。2022年12月期末のそーせいの総資産が994億円なので、総資産の約7割の金額を投じたことになる。2015年にイギリスの創薬ベンチャー・ヘプタレスを買収した際の約470億円を上回り、同社として過去最大のM&Aになる。今回の買収は、イギリス・ヘプタレスの買収が創薬機能の大拡充であったのとは、買収の質を大きく異にする。そーせいは、創薬から後期開発・販売まで一気通貫の機能を持つ中規模の製薬企業に、日本やAPACでなるのだ(IPJなどの事業買収について詳細は 前回記事 )。創業者の田村眞一会長がそーせい設立以来、胸に温めてきた、悲願、野望――アメリカのアムジェン(AMGN)やジェネンテックが歩んだように、創薬ベンチャーから出発し、最終的に後期開発と販売機能を兼ね備えた製薬企業になる――への大きなステップになる。買収を先頭に立って進めた、そーせいのクリス・カーギル社長CEO(最高経営責任者)と、それを支える野村広之進副社長CFO(最高財務責任者)の両首脳に、今回の買収の裏側と、そーせいにもたらす意味を聞いた。――そーせいはこれまで、売上高の規模を押し上げるM&Aと、日本市場での後期開発品・製品の導入を別々に目指してきたと思います。今回の買収で、結果的にこの2つを同時に実現しました。 カーギル:その理解で結構だ。過去のアラキス、ヘプタレスの買収も同様だが、M&Aは成長ドライバーとしてつねに模索してきた戦略だ。 今回のイドルシアの(日本・韓国などAPAC事業の)買収は実に幸運だった。イドルシア本社が財務的に問題を抱えていなければ、こんな好機は得られなかっただろう。 ――突然の買収でしたが、イドルシアとはいつから交渉していたのですか。 カーギル:イドルシアの前にも、何度もM&A(の交渉)の機会はあったが、条件が合わなかった。イドルシアの話を見つけたとき、ほかの案件も進めていたが、すぐに今回の案件に切り替えた。 即座に動かないとほかの会社にチャンスを取られてしまう。小さな会社だが、そーせいには買収を(迅速に)実現する高い能力がある。ヘプタレスの買収でも大きな製薬会社と渡り合ってモノにした。今回も同じだ。 イドルシアに目をつけたのは4月末。スイスの本社に接触し、最初の会合を持ったのが5月3日。その2週間後には基本交渉に入った。最終交渉をまとめたのはそれから6週間後。とても早い動きだった。 今回の買収に関わった関係者はみな夜遅くまで働き、ある日にスイスに飛んだと思ったら翌日は日本にいるという具合だった。7月20日に契約にサインし、翌日にはお金を支払った。今回私たちが達成したことを私は誇りに思う。
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大西 富士男