「一回気持ちが折れて……」スポーツ小説と警察小説の分野で活躍する堂場瞬一がデビュー24年の軌跡を語る
2000年に第13回小説すばる新人賞を『8年』で受賞しデビューしてから、20年以上も精力的に執筆を続けてきた堂場瞬一氏。その著作が200冊の大台に至るという。 それを記念して、デビューから今までの執筆の軌跡とこれからの展望について、文芸評論家の細谷正充氏との対談で語っていただいた。 スポーツ小説から警察小説、また戦前を描いた歴史小説など、堂場瞬一の世界を概観する。
◆堂場瞬一を形づくる2つの小説の柱
細谷正充(以下、細谷) 今年中に、著書が200冊に達するそうですね。 堂場瞬一(以下、堂場) ええ、死ななければ(笑)。 細谷 あっという間という感じですか? 堂場 あっという間でしたね、本当に。 細谷 デビュー作がスポーツ小説で、次が警察小説。このふたつのジャンルが創作の柱になっています。最近出版された『綱を引く』は、スポーツ小説ですね。 堂場 嫁が「すげえ面白い」って言って読んでいるんですけど、ちょっと今までのスポーツ小説と感じが違うんです。競技そのものよりも、地域との絡みの方が大きい。僕は競技そのものに常に重点を置いて、あまりサイドストーリーとかが好きではなかったんです。なんで「綱引き」かというと、完全に全員が力を合わせなければいけない、究極のチームスポーツを書きたくて。だけど「引く」だけなんで、さすがに持たなかった(笑)。競技のテクニックとしては大変なものがあるんですけど、これがまた凄く書きにくい。で、そうなってくると、どうしてもサイドのストーリーが必要だなと、こういう書き方をしたんですけど、若干、自分の筋を違えた感じはないでもないですね。ただ、いろいろと試してみようという気持ちはあるので、今回はこういう形になりました。 細谷 スポーツ小説を書くときは、スポーツそのものに集中したいと。 堂場 はい、あまりそういう風に書いている人がいないので。横のストーリーを広げがちじゃないですか。その方がだいたい面白くなるし。でも僕は、本当に穴をひたすら掘り続ける方式でやってきた。ただ今後どうなっていくかは、ちょっと分からないですけどね。 細谷 分からないとは? 堂場 正直言っちゃうと東京オリンピックで、一回気持ちが折れていますから。やっぱりリアルの方でいろいろありすぎて、なんか裏側というか、変なところが世間の人にも見えちゃったなと思って。みんな、なんとなく分かっていたことが明るみに出ちゃった状態で、熱血の話は書きにくいよねっていうのが、今の感覚です。 細谷 ああ、なるほど。 堂場 スポーツ小説はこれから非常にやりにくい状況になってきているなと。みんな何事もなかったかのように、昨日まで野球で盛り上がっていましたけど、実際はなんか違うぞっていう。自分の中で今、凄く疑念を抱えたままやっている。ただ、暗い面で書くと、誰も読んでくれないんで(笑)。スポーツのことはもう大谷(翔平)さんに任せて、楽しい気分になるからいいのかな、みたいな。そういう、ややマイナスの気分に、東京オリンピック以来なっています。 細谷 もうひとつの柱の警察小説は、「警視庁追跡捜査係」シリーズの最新刊『全悪』が出ますね。警察小説はシリーズ物が多いですが。 堂場 このシリーズも最初はそういう話じゃなかった。普通に連載やって一発出して、その後は特に話はなかったと思うんですよ。だから、なんでこれがシリーズになったのかよく分からない。 細谷 「警視庁追跡捜査係」シリーズは、堂場さんの警察小説シリーズの中では、一番手間がかかってるんじゃないですか。 堂場 凝った話は好きではない。幹が太いシンプルな話で、横にチョンチョンチョンチョンって葉っぱをつけていく書き方が好きなんですよ。で、このシリーズは幹が三本ぐらいあったりとか、あまり自分のスタイルじゃないんです。でも、たまにこういうことやらないと、頭が固くなってしまう。まあ、年に一回これを書くのは柔軟体操になっているなと。