【台風13号から1年 問われる備え】(下) 河川改修・完了に時間 ソフト対策、重要視して 福島県いわき市
昨年9月の台風13号に伴う線状降水帯の豪雨被害が集中した福島県いわき市内郷地区では、県管理河川の新川と宮川が氾濫して浸水被害が多発した。災害から1年が経過する中、現地では河川の災害復旧工事が続いている場所もある。 発災の半年前に市役所を退職した元市危機管理部長の飯尾仁さん(61)もこの地区で被災した1人だ。当時は新川近くの自宅で避難の準備をしつつ、河川のライブカメラや水位計の情報を集めていたが、急激な降雨で気付いた時には玄関に水が入ってきていたという。2階に垂直避難せざるを得ず、「災害対策を担ってきた自分でも油断があった」と振り返る。 県は今年6月、専門家の意見などを踏まえて新川と宮川の浸水対策をまとめた。たまった土砂を取り除いたり、せきの一部を撤去したりする応急対策は一部で完了したが、氾濫を防ぐ本丸の河川改修は今年度に計画検討に着手したばかり。今後、詳細な設計や用地買収を経て2026(令和8)年度の工事開始を目指す。川幅の拡幅や川床の掘削も予定しており、県いわき建設事務所の担当者は「護岸も造り直さないといけないので完了にかなりの時間がかかるだろう」と話す。
宮川には県の許可を得ずに架けられた通称「勝手橋」の存在もある。県の調査によると、浸水区間にある橋25カ所のうち10カ所が管理者不明。被害を調査した東北大などの検証チームも「勝手橋への漂着物が川の流れを阻害し、越水の原因の一つになった」と指摘する。一方で、橋は住民生活と密接なため、県は利用状況を踏まえて住民の理解を得ながら順次撤去する考えだ。 南相馬市でもハード対策の難しさが浮き彫りになっている。内水氾濫が起きた市内原町区南町地区は市街地で大きな重機が使えず、直接的な対策が取れていない。市街地に水が流れないよう上流部で川に排水する工事を進めるが、完了には5年から10年かかるという。 災害リスクは年々高まっている。いわき市では台風7号が接近した8月16日、線状降水帯発生の恐れがあるとして市内全域に警戒レベル4の避難指示が出た。内郷宮町の国井信一区長(75)は「台風は毎年来ると思うが、河川整備に時間はかかるし行政にお願いばかりもしていられない」と住民が主体的に防災に関わるべきとする。
「河川改修といったハード対策はどうしても物理的な限界がある」。いわき市の災害検証チームを統括した東北大災害科学国際研究所の柴山明寛准教授(48)は指摘する。近年の気候変動や災害頻発化にハード対策では追い付かない可能性があるとし、「市の情報発信や自主防災組織の強化など、行政と住民双方がソフト対策を重要視していかなければならない」と訴えた。