「夫に監視されてる…?」9歳年下の妻に、還暦夫がしのばせた「あるモノ」。疑惑が招く思わぬ結末
老後を牢獄に感じる
「ねえ、悟志さん、どうしてこんなもの入れたの? こんなことしなくたって、携帯はいつだってつながるし、なんだか監視されてるみたいでいやだわ」 家に帰るなり、テレビの前に置物のように座っている夫をなじった。私が家を出てから3時間も経っているのに、その間ずっとNETFLIXを見ていたようだ。朝見た時よりも話数が進んでいる。こんなふうに、すべてを把握してしまうと、夫に対して幻想を持ちようがなかった。 「ああ、それは会社の記念品でな、ふたつもらったから、ひとつはお前がいつもしょってるリュックに入れたんだ。あとひとつは俺が持ったから、お前もスマホでいつでも確認―――」 「やめてよ! 黙ってそんなことして。ほかにもっと関心持つべきことがあるでしょう。仕事がないなら、スポーツセンターに行って少し体を動かすとかしたほうがいいわよ」 悟志さんは、明らかにむっとした顔になり、「それより飯」といいながら杖をついて庭先に出ていく。病気をして以来、わかりやすい後遺症は手足の軽いしびれだったけれど、なんとなく言葉も出にくくなったような気がする。以前なら、もっと勢いよく怒鳴ったはず。 それが単に年老いたからなのか、後遺症なのかはわからなかったけれど。 ――なんだか、余計に偏屈になったような気がする……。 私自身だって50を過ぎて、人生の後半に入ったことをはっきりと感じていた。それでも、まだまだ歳の割には若いと思っているし、見た目も体型も気を遣ってはいたから、40代半ばと間違われるくらいには頑張っている。 そんなふうに、必死に見ないようにしている「老い」が、悟志さんと一緒にいると、毎秒のごとく突きつけられる。お前ももうすぐ、こうなると。私たちは、緩やかに下りながら、同じように老いていくのだと。そのうえ、彼は私のことを女として見ていないというのに、私たちはこの先二人一組で生きていくしかない。 それが苦しい。「ふたりきりの老後」を抜け出せない牢獄のように、感じていた。