五輪初競技「ブレイキン」徹底解説! プロダンサー・DRAGONに聞く日本代表選手の強み
B-GIRLは日本選手が圧倒的 サポート体制から覗く各国の姿勢
――ブレイキン日本代表男子のレベルも高いですが、女子はさらにレベルが高いんですね。 DRAGON:世界大会の点数でいうと、日本の女子選手が1~3位までを独占しています。オリンピックは各国2名までという決まりだったので、3位だったRiko(波古梨心)選手が惜しくも落選してしまったのですが、そのくらい日本はレベルが高いです。その他の海外勢が上から下まで20点ぐらいの差があって、そこをどう埋めるか――当然選手たちは技を磨いていると思いますが、ネタの数やスキルの部分にはまだ圧倒的な差があるので、日本選手2人のメダルは確実じゃないかなと。 ――女子にそこまでの差が生まれた理由は? DRAGON:昔から日本のB-GIRLは強いんです。それは、海外と比べて土台作りが早かったからなのかなと思います。昔はあまり男女の区別がなく、女子でもB-BOYバトルに出て戦って、「女子がこなすには難しい」と言われていた技などをどんどん覆していった。そのB-GIRLの完成形が彼女たちだと思います。他の国にもハイレベルなスキルを持っている選手はいますが、見せ方やネタのバランスの取り方において日本選手は群を抜いているのが強さの理由だと感じますね。 ――今回のオリンピックでの男子/女子のバトルでの違いや見どころはいかがでしょうか? DRAGON:男子は技の応酬やキレの良さ、独創性が魅力だと思います。その人の得意な技で戦いに出るので、「本当に人間技なのか?」というようなやりとりが見どころになるのかな、と。女子は、男子に比べて衣装の着飾り方や見せ方へのこだわりがより強い部分があるので、一つひとつの動きが魅力的に映ると思いますね。その中ではもちろんパワームーブも繰り出してくるので、純粋にすごさを楽しんでいただければと思います。 ――ジャッジはどのように行われるのでしょうか? DRAGON:日本代表を決める大会や、強化選手を見つけたりする大会に関わらせていただいた際には、僕も講習を受けまして、それを例に挙げて言うと、1つが「技術」の部分。パワームーブなどダイナミックな技の繰り出しなどへの評価ですね。2つ目が「表現力」で、その人にしかできないオリジナリティや流れ、雰囲気がポイントとなります。3つ目が「構成」で、相手の流れを読んで動きを被せたり、音の取り方のバリエーションの魅せ方などです。この3つが大まかな審査基準で、ここからさらに枝分かれ(オリンピックの採点基準は「技術性」「多様性」「完成度」「独創性」「音楽性」)していきます。そして、それを一瞬で判断するのがジャッジです(※1)。 ――ジャッジの方も責任重大ですね。その表現がどれだけ大変かわからなくてはいけないし、リアルタイムで一発本番の中で見極めるスキルが求められるわけですから。 DRAGON:30秒以内に判断を下す必要があるので、ジャッジもプレッシャーだと思います。講習の際も、「なぜこのジャッジだったのか」を明確に説明できるように、終わってから何時間も話し合ったりしていました。国が関わることなので、例えば僕が日本の方に得点を入れた場合、そう判断した明確かつ合理的な理由を説明できなかったら当然ミスジャッジになってしまう。単に自分の母国だからとか感情で入れたのではないか? と、ジャッジミーティングが厳しく行われるのではないでしょうか。 ――日本選手が有力視されていますが、他の国の様子はいかがでしょうか? DRAGON:2005年ぐらいから韓国がどんどん強くなってきていますね。国のサポートが手厚かったり、チームごとにいろんなスポンサーがついていたり、イベントの規模も大きくなっています。ヨーロッパの国々はブレイキンを「芸術」という捉え方をしている関係で国の意識が高く、チームごとに助成金が出ているところもあります。アメリカはカルチャーとして出来上がっているので、ストリートパフォーマーの方がいたり、それで生計を立てていたり、音楽アーティストのバックダンサーオーディションが多かったりして、ブレイキンのイベントも豊富です。 ――国ごとにブレイキンの社会的な位置づけやサポートについての思想があり、それを聞くだけでも姿勢が見えてきますね。 DRAGON:あと、オリンピック大国といえば、ロシアと中国。ロシアは元から独創性の質、量がともに高かったところにブレイキンがオリンピック種目になったことで、国が育成に力を入れて、目に見えて変わってきました。ロシアは今大会において出場制限がかかっていることもあり、国内でオリンピックの形式に近い大会を主催して士気を落とさないようにしていますが、今後どういう成長をしてくるか楽しみですね。中国は有力なコーチをどんどんスカウトしています。 ――また、ウクライナからも数人出場しますが、これはロシアの文化圏で同様に踊りや体操に力を入れているからでしょうか? DRAGON:それもあると思います。僕自身、もともとロシアやウクライナのB-BOY/B-GIRLとも仲が良く、一緒にバトルに出場したりしていました。彼らって、基礎力がすごく高いのに遊べているというか、その人にしかできない形の動きが多いんですよね。少しコミカルな雰囲気ではあるけど、そのコミカルのかっこよさをわかっているところが、ロシアやウクライナの強いところです。今回のオリンピック出場選手たちはきっとそういうところもしっかりやってくるので、その辺りがどう評価されるかによって点数の付け方もまた変わってくると思います。ブレイカーはどこの国でも人柄が本当に良くて、著名なダンサーはほとんどみんなが知り合い同士なんですよね。大会後のパーティーも楽しいですし、日本が好きな海外勢も多かったりします。この大会もどうなるのか、そういう意味でもいつもとは違う状況が楽しみではあります。 ――このオリンピックでブレイキンに興味を持った方が、この後ブレイキンの文化にハマっていく上でオススメのコンテンツを教えてください。 DRAGON:ダンスバトル、コンテストなどを中心とした「ENTER THE STAGE」というサイトがあります。ここには全国の大会やワークショップが載っているので、近場で開催されるバトルを探して、ぜひ実際に見てもらいたいですね。ビッグなイベントでもローカルなイベントでも楽しさが詰まっているので、生で見るとより楽しさをわかってもらえるのではないかと思います。動画だと「FLAVAJAPAN」というYouTube番組で、バトルや技の解説、バラエティ企画なども行われているので、ブレイキンをさらに楽しんでもらえると思います。あとは、実際にレッスンに体験しに行くのもいいかもしれません。僕のやっているレッスンでも、キッズの子からシニアの方まで年齢関係なく楽しんでいます。そこでの交流もブレイキンならでは。うまくできないというプレイヤーの気持ちに寄り添える先生が多いので、構えることなく楽しんでもらえたらと思います。 また、8月31日には、僕の所属しているFOUND NATION主催の『FOUND NATION 22nd ANNIVERSARY』というダンスイベントが東京・GARDEN新木場FACTORYで開催されます。海外のダンサーの方も呼んだりしていて、お祝いモードで盛り上がれるイベントになっていますので、そちらもご覧になっていただけるとカルチャーとしてのブレイキンを楽しめるはずです。お時間があれば、夏の最後の思い出に足を運んでいただけたらなと思います。 ※1:https://www.joc.or.jp/sports/breaking/
日詰明嘉