イチロー獲得にマリナーズが戸惑う理由。「1年で引退とセットだから」
彼らにはまた、苦い思い出もある。 先程も触れたように2009年にマリナーズはグリフィーを呼び戻した。その1年目、グリフィーは主に指名打者として出場すると、打率は2割1分4厘ながら、19本塁打を放った。さらにチームは、プレイオフ出場こそ逃したものの、85勝を挙げて、101敗した前年から大幅に勝ち星を増やした。数字以上の効果があったのである。 するとそこでマリナーズは欲をかいた。グリフィーと再契約を交わしたが、翌2010年は開幕から不振。5月に入って、試合中にグリフィーがクラブハウスで寝ていたとも報じられた。6月に入って、突如引退が発表されたが、グリフィーは、誰に告げることなく車でシアトルを離れ、オーランドの自宅に戻る途中で、それが明らかとなっている。 よってあのとき、引退会見もなければ、ファンに最後のユニホーム姿を見せることもなかった。一連の経緯には後味の悪いものが残り、一部のオーナーはこの時、「1年で引退していれば、晩節を汚すようなことはなかった」と再契約の決断を後悔したそうだ。 チームもグリフィーも負った深い傷。それゆえ、彼らは“カーテンコール契約”に臆病なのである。 かといって、他球団でユニホームを脱ぐ、という事態だけは避けたいのがマリナーズの本音ではないか。ただ、その時期が読めない。契約すれば、一種の足枷へと形を変える可能性もある。本来なら、必要な戦力なのかどうかが大前提だが、イチローとの契約となると、単純な話ではなくなる。 最後に求められるのは、マリナーズの覚悟。それが問われる中、2018年の年が明けた。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)