映画『哀れなるものたち』衣装のヒミツ
──本編にはモノクロパートとカラーパートが混在し、カラーパートもどこかテクニカラー(*初期のカラー映画に用いられた彩色技術の一つ)のような独特の発色です。各色合いは事前に共有されましたか? されていたら、それは衣装にどう反映されましたか? 色彩については延々と語り合いました。ヨルゴスは非常に繊細な色彩感覚の持ち主です。私もかなり敏感な方だけど、彼はそれを新しいレベルのニュアンスにまで高めていると思います。それから、プロダクションデザイナーのショーナ・ヒースと、ジェームズ・プライスとも。特にショーナは、コンセプトワークの段階からこのプロジェクトに関わっていましたから。私たち二人はそう遠くないところに住んでいて。だからパンデミックの時期でも、物理的に会うことができる状況であれば、顔を合わせていました。そうやって膨大な参考資料をまとめ、色の体系を引っ張り出したんです。……実は撮影の2週間前まで、最初のパートがモノクロになることは知りませんでした。 ──そうなんですか!? 最初のパートは、ウィレム・デフォー演じる外科医ゴッドウィン・バクスターの家で繰り広げられます。ベラはこの家を出ることなく暮らしてきたわけですが、このパートで選んだ生地はすべて、腐ったリンゴのカラーパレットに基づいていて(笑)。言い換えるなら、手術図にあるような体内の色を参考にしました。なんともイヤな色ばかり、です。 このパレットをとても注意深く作り上げたんだけど、ヨルゴスが「もうカラーで撮影するつもりはない」と言うものだから、すぐに考え直さなければなりませんでした。というのもキャラクターごとに同系色の衣装を用意していたから、モノクロになると全部グレーにしか見えないわけで。たとえばウィレムの衣装の多くは、すべてトーンの異なるオックスブラッド(*「雄牛の血」を意味する暗い赤)。これもまるでレバーみたいな、体内に存在する色です。 続くリスボンのパートでは、ベラは自由となり、初めて本当に世界を経験します。見たことのないものばかりに囲まれて、絶対的にハイになっている。喜びが爆発したような衣装にしたくて、カラーパレットにも彩りを添えました。一般的にイエローは着こなすのが難しいと思うし、自然界ではハチに代表されるように警告の色でもある。私はこのイエローが欲しくて、たくさん使っています。ポストプロダクションで美しい空が描かれ、その色はしばしばイエローと対照的です。最後のパリのパートではもちろん、もっと落ち着いたカラーパレットです。