元エンジニアが僧侶になり「寺院デジタル化エバンジェリスト」を名乗るまで セミナー参加者わずか5人から始まった挑戦 「サステナブルなお寺」を目指すなかで絶対に譲れないこと
蓄積したノウハウを全国のお寺へ
――他のお寺へのIT支援もおこなっています。 2016年ごろから、他のお寺から「こういうことをしたいのだけれど、どうしたらいいのだろうか」という質問が来るようになりました。少しでも手助けできたらと思って、私のノウハウをすべて公開しています。 2018年ごろからは「寺院デジタル化エバンジェリスト」と名乗って、IT企業に対して、お寺がこんなことに困っているということを伝える活動も始めました。 ただ、2019年に、新宿でインターネット企業の主催で宗教法人向けのウェブ制作セミナーを開催したんですが、5人くらいしか集まらなくて大スベりしました。当時はお坊さんたちも「お寺にウェブサイトなんていらない」という感覚だったのでしょう。 ところがコロナ禍に入って、急速にウェブ上で情報を発信しなければいけないという意識が高まり、2021年6月に再びインターネット企業やIT企業と一緒にオンラインセミナーを開催したところ、オンラインで160人あまりの参加がありました。 コロナ禍では、地域支援として、塩尻市内でテイクアウトできる飲食店をまとめたウェブサイトも作りました。Twitter(当時)でハッシュタグをつけて情報提供してもらい、私の方でマップ上に掲載していき、最終的には120店舗あまり掲載しました。ざっと計算してみたのですが、おそらく1億円ほどの経済効果があったと思います。 お寺向けの支援としては、仏教用語のパソコン用変換辞書を作りました。最初の数文字を入力すると、普通のパソコンの辞書機能では変換できない浄土宗の用語9700語が予測変換されます。 2021年には書類のデジタル化、ネットワーク、情報セキュリティやデータ管理、WEBサイトやSNSの使い方などお寺のIT化を進める寺院ITアドバイザーとして「DX4TEMPLES」を開業しました。
サステナブルな寺院運営の仕組みづくり
――現在取り組んでいる活動や、新たな目標を教えてください。 現在、浄土宗総合情報システム専門部会委員および浄土宗総合研究所の研究スタッフとして、浄土宗のお坊さん向けにITリテラシーやSNSの使い方、ウェブ制作などの講義を各地でおこなっています。 さらに宗派を超えて、高野山真言宗の青年会や、ハワイ開教区の方々、福岡県の神職の方々など、いろんなところで講演やセミナーに呼んでいただくようになりました。 お寺業界全体の最大の課題は人手不足です。コロナ禍を経て、僧侶になろうと思う人がさらに減ってしまいました。 今後、1人の僧侶が2つや3つのお寺を管理しなければならなくなっていくと思います。その時に、事務仕事や雑草刈りで1日が終わってしまい、僧侶としての勉強をする時間がないということにならないよう、本当の意味でのサステナブルな仕組みを作っていきたいですね。 ただし、私たちは宗教なので、人が人に伝えるという部分は絶対に変わりません。アンドロイドがお経を読むとか、ドローンでお墓参りとか、そういう方向には行きたくないと思っています。 観光で寺院に行くことがあると思いますが、町のお寺にも素敵なところがあり、素敵な僧侶がたくさんいるので、ぜひ身近なところに目を向けていただきたいですね。
朝日新聞社