元エンジニアが僧侶になり「寺院デジタル化エバンジェリスト」を名乗るまで セミナー参加者わずか5人から始まった挑戦 「サステナブルなお寺」を目指すなかで絶対に譲れないこと
墓地管理から始まったデジタル化
――お寺のIT化にはどのように取り組んでいきましたか。 最初は、紙で管理していた墓地の地図をエクセルでデータ化して、檀家(だんか)さんを管理していたソフトとひもづけてデジタル化しました。これまではお墓の場所を聞かれてもなかなか探し出せず10分くらい待たせていましたが、検索したらすぐにわかるようになった。何より良かったのは、残りの時間を檀家さんとのコミュニケーションに使えるようになったことです。 また、寺報という広報誌も作るようになりました。最初は学級新聞を作るようなソフトで作っていましたが、今はレイアウトソフトであるAdobeのInDesignで作ったものを配布しています。この内容をウェブマガジン形式で記事化もしています。 私は新しい副住職なので、最初の頃は檀家さんが私の顔を知らなかったんです。お盆のお参りに行った時も、関西弁が抜けていなかったこともあって、「偽物のお坊さんが来た」と言われたこともありました。そこで顔を覚えてもらおうと思って作り始めたんです。 これを通じて檀家さんとのコミュニケーションがさらに増えました。情報を発信すると、和尚さんはこういうことを書いているけれど、これはどうなの、といった質問が来るようになりました。 ――苦労している点があるそうですね。 例えば事務で必ず使うあるメーカーのソフトの場合、NPO法人向けには格安プランがあるんですが、宗教法人はプランを使えないんです。アメリカでは教会がNPO法人用のサービスが使えるようになっていますが、日本の宗教法人は使えない。 そのメーカーの担当者と話す機会があった時、日本のお寺にもNPO法人版を使わせてほしいと伝えようと思ったら、先方からはお墓参りドローンの提案をされたり、特殊なレンズで仏像が飛び出すようなプロジェクトを提案されたりしました。 一般の方が思う観光寺院的なイメージと、私たちの普通のお寺の悩みには大きな乖離(かいり)があるということがよくわかりました。