病気の子どもたちへ “先輩”が伝えたい働くこととは 愛媛のNPO法人が動画制作
病気のために長期入院・療養をしていた子どもの中には、仕事への関心が高くなかったり、働くというイメージが描きにくかったりする人が少なくありません。 学齢期にさまざまな職業や生き方を知っていたら、進路選択に役立てられるかもしれない―。 こんな思いから、難病の子どもや家族をサポートする認定NPO法人ラ・ファミリエ(愛媛県松山市)が動画「先ぱいのおしごと のぞいてみよう!」を制作しました。登場するのは病気を抱えながら、社会で活躍する“先輩”たち。当事者の気持ちが分かるからこその温かいメッセージを送ります。(原田茜) ◆体験語り、寄り添う 「小学校に入ったばかりの時に急性骨髄性白血病になりました。最初は半年以上も入院して化学療法の治療を受けました。なかなか学校に行けず、大変な時がありました」 「今頑張っていることを大事にして、積み重ねていってもらいたいです。辞めたくなったときは方向転換して、また頑張るのもアリかな」 動画(各約7~13分)に出演するのは、県内外に住む20~60代の男女6人。職業は会社員や小児科医などで、それぞれ先天性心疾患などがあります。自身の病気や現在の仕事を選んだ理由、体調を整えながら働き続けるこつといった質問に答えていきます。 ◆自立へ支援 小児医療の進歩により、慢性疾患のある子どもの9割以上が成人期を迎えられるようになりました。病気をはじめ、多くのハードルを乗り越えて自立するには、ライフステージに合わせた切れ目のない支援が求められています。 ラ・ファミリエ(檜垣高史理事長)は2015年度から、県と松山市の委託事業として「小児慢性特定疾病児童等自立支援事業」に取り組んでいます。松山市に相談拠点「地域子どものくらし保健室」を構え、病児や家族の相談支援を展開。就職・学習のサポートや交流活動も実施しています。 ◆描いてほしい将来の夢 動画は23年度のベネッセこども基金(東京)を活用して制作。23年12月から動画サイト「ユーチューブ」で公開しています。 自立支援員の越智彩帆さんは「病気のある子どもたちもゆくゆくは、病気がない人と同じ土俵に立って就職活動をしなければなりません。動画が将来の夢や職業を思い描くきっかけになれば」と語ります。 ◆背中を押したい “先輩”はどのような思いでいるのでしょう。出演者の1人、グラフィックデザイナーのみかりんさん(ニックネーム)=60代=を訪ねました。 みかりんさんは生まれてすぐに心臓の難病「単心室」と診断されました。症状を改善できる手術がなく、経過観察に。20歳ごろにペースメーカーを入れました。高校、デザイン学校を卒業後はデザイン事務所などで技術を磨き、27歳で独立。広告やパッケージのデザインを手がけています。 さまざまな葛藤がありながらも、自分の体と向き合って働いてきたみかりんさん。60代を迎え、子どもだけでなく、親世代にも伝えられることがあると言います。 「闘病中は親も子も、今を生きるのに必死だと思いますが、少し遠いところから、先の未来についても考えてほしい。長生きをしている一例として、動画を参考にしてもらいたいです」。自身の体験が親子の希望になれば、と願います。 「どんな子どもにも、勉強する権利や仕事をする権利がある。働くことは収入を得るためだけでなく、社会の役に立っていると感じられたり、生きがいになったりするという意味でも大切です。自分の体と相談して続けられる仕事を見つけ、楽しく生活を送ってほしいです」
愛媛新聞社