20年間「孤独死ゼロ」を実現させた大山団地・自治会会長の佐藤良子さん
「あら、木村さん。風邪は、すっかりよくなったようね」 「ご心配かけましたが、なんとか生きてるわよ(笑)」 【写真あり】「誰もが同じ団地に暮らす家族」との思いで運動会や夏祭から自治会葬まで常に先頭に立ち住民らを率いてきた ママチャリですれ違いざま、高齢の女性たちの会話が始まる。ふたりの背後では、初夏の日差しのなか、団地内の公園で遊ぶ子供たちの声が響きわたっていた。 「また体調が悪くなったら、いつでも私の携帯に電話ちょうだい」 と、笑顔で70代の住民に声をかけたのは、東京都立川市にある大山団地「大山自治会」相談役の佐藤良子さん(82)。 大山団地は正式には都営上砂町一丁目アパートといい、26棟に1千400世帯・3千800人が暮らす。このマンモス団地がいま全国で注目されているのは、20年にわたり「孤独死ゼロ」を続けているからだ。 最初の東京オリンピックの前年の1963年に入居が始まった同団地。高度経済成長期を経てわが国に押し寄せた高齢化の波は、当然、ここにも及んだ。佐藤さんが言う。 「現在、65歳以上の高齢者が約1千人で、うち一人暮らしが約400人、高齢化率は34%です」 同時に孤独死という深刻な社会問題も生じたが、大山団地では自治会がいち早く対策に乗り出し、「孤独死ゼロ作戦」を敢行。その牽引役が、当時の自治会長だった佐藤さんだ。 ■「自分が死んだあとのことが心配」という声を受けて始めた“自治会葬” 「これは、ひどい……」 初めて佐藤さんが孤独死の現場に立ち会ったのは、自治会長に就任してすぐのことだった。 「あるとき、『一人暮らしの住人の部屋から異臭がする』と自治会に連絡が入り、警察の検視となりました。これに立ち会うのも、会長の役目のひとつなんです。 部屋に足を踏み入れると、かつて経験したことのない臭いと、あえて言いますが、ウジのわく現場の悲惨さに絶句し、立ち尽くしてしまうわけです」 その住人は、子供会の活動などに一緒に参加していた仲間だった。 「なんで、そんな人がひとりで亡くならないといけないんだ。二度と、団地から孤独死は出さない」 誓った直後から、佐藤さんは「孤独死ゼロ作戦」を掲げていく。 「もう一度、地域とのつながりの在り方を根本から考え直さねば、と思いました」 まずは、電力会社、ガス会社と水道局に協力を依頼した。 「使用量が急に減ったり、集金時にいつもと違うことがあれば、すぐに自治会にでも私の携帯にでも知らせてください」 同じく地域の新聞、牛乳などの宅配店にも出向く。わずか半日でも商品が受け取られないままになっていたら、異変の兆候とみなすという徹底ぶりだった。