増産体制のツケ? 子牛暴落が農家直撃、飼料高騰や物価高による消費鈍化も追い打ち…出口の見えない苦しみが畜産県にのしかかる
国内需要の増加や輸出拡大に向け、国が増産を促してきた和牛の相場が低迷している。鹿児島県内の子牛平均価格は5、6年前の1頭80万円近くが、いまや40万円台。飼料・資材の高騰や国内消費の伸び悩みもあって、畜産県は出口の見えない苦しみを抱える。 【写真】母牛に餌やりする農家。飼料価格は高止まりし、経営を圧迫する=15日、中種子町油久
「増産のために国が給付した奨励金はありがたかったが、子牛価格低迷を招いた一因のように思う」。鹿屋市下祓川町で母牛8頭を飼う男性(32)は複雑そうだ。 2020年度に始まった増頭奨励金を使い母牛を導入した。就農した19年当時はインバウンド(訪日客)需要が旺盛で輸出も右肩上がり。好調な牛肉消費にけん引されて子牛相場はバブルの様相で、1頭100万円超えはざらだった。 国はこの頃、牛肉生産量の倍増を打ち出し、奨励金を交付し母牛の増頭を促した。ところが新型コロナウイルスの感染が拡大し、ウクライナ侵攻や円安で飼料価格は高騰。物価高が加わった今、消費も鈍る。 23年度までに奨励金を活用して導入された母牛は県内で2万頭を超えた。男性は「市場がパンクし、需給バランスが崩れているのでは」とみる。子牛を出荷しても赤字で、野菜生産やアルバイトでしのぐ。 ■□■ 輸送費などでハンディがある離島は、子牛価格の下落が顕著だ。採算ラインが50万円超と言われる中、種子島家畜市場では8月の平均価格が十数年ぶりに40万円を切った。2カ月ぶりにあった10月の競りでも約42万円だった。
農家存続の危機感を覚える西之表市は9月の補正予算で一般財源から7600万円を充て、独自の飼料高騰対策として子牛1頭当たり2万5000円を給付することにした。ただ本年度限りで「地方自治体でできる支援の限界」(市担当者)。 中種子町油久で母牛140頭を飼う男性(68)は「国を挙げて増産体制を進めたツケだ」とこぼす。町内の繁殖農家はコロナ下の4年で30戸以上廃業した。自身も子牛価格の低迷に加え、牛舎や堆肥舎といった設備投資分の回収が重くのしかかる。 「霜降り(サシ)を追及するあまり和牛は高級品になった。サシを抑えた手頃な価格の肉に転換するのも一つの方法」と指摘する。国は現在、5年程度で見直す和牛の改良方針の取りまとめを進めている。 ■□■ 牛肉の輸入自由化以降、和牛は安い海外産と差異化を図るため霜降り重視の高級路線を進んだ。サシが多く最高級の5等級率は全国で60%を超え、10年前の20%台から大幅に伸びた。
指宿市などで5000頭を飼う男性(82)は「最近は肥育費用が上がり、枝肉を売っても原価割れの状態。サシの入り具合でキロ単価は数百円変わる。農家としては値がいい5等級を目指す」と説明する。 高齢化や健康志向の高まりで消費者にサシを敬遠する声もある。「4等級くらいが脂の量が程よく食べやすい。でも和牛のおいしさはやはり脂にある。高級な牛肉でも買ってもらえるように景気が上向く政策を」と訴える。
南日本新聞 | 鹿児島