日本が誇る最強コンテンツ「ポケモン」と「工芸」を掛け合わせ、世界を席巻した展覧会が東京へ凱旋
■ 世界で絶賛される理由 成功の最大の理由は、アーティストの「本気度」だろう。20名の参加アーティストのひとり、彫金で人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定されている金工作家・桂盛仁の制作の様子を紹介したい。 桂盛仁がモチーフに選んだブラッキー。ボディには銅と金の合金である赤胴が用いられているが、赤胴は薬液で煮るとかがく反応が起きて、烏の濡れ羽色とも称えられる黒色を呈し始める。桂がブラッキーのために選んだ金の含有量は「絶対的に5%!」。赤胴の色調は煮色仕上げで形成された被膜内の金の粒子に光が当たることで決まるが、5%になると「黒に紫が入り、その紫が一段と明るくワーーッて来る」のだという。 黒一色ではないブラッキーの「黒」。月の光でイーブイの遺伝子が変化して生まれたブラッキー。そんな誕生の物語が、桂盛仁のブラッキーにはしっかりと表現されている。作品と向き合うと、黒が深くて、実にいい味わい。50年以上のキャリアをもつ人間国宝が未知なるテーマ「ポケモン」に本気で挑み、ここまで世界観を理解していることに正直驚かされた。
■ 作家の「技」に驚くばかり 東京展では新作が追加され、展示総数は約80点。どの作品からも作家の本気度が伝わってくる。気になった作品をいくつか紹介したい。 子供の頃に『ポケットモンスター サファイア』に夢中になったという象嵌作家・福田亨は、アゲハント、アリアドス、ホウオウの3点を出品。一番好きだったホウオウは、螺旋状の象嵌タワーを用いて、どこまでも高く飛翔する姿を表現。象嵌の技法でタワーに施された麻の葉文様が美しい。 城間栄市は沖縄の型染「紅型」の技を継承する“紅型三宗家”のひとつ、城間家の16代目。今回、制作のイメージにポケモン原作の舞台のひとつである南国の「アローラ地方」を重ね合わせた。アダンの葉4枚を1単位とするパターンを作り、そこにピカチュウ、ライチュウ、モクロー、ニャビーらがやって来たという設定。南国の風を受けながら、楽しそうに躍動するポケモンたちの姿にワクワクとさせられる。 金工作家・坪島悠貴の《可変金物 ココガラ/アーマーガア》は、まさに超絶技巧。「可愛いココガラがかっこいいアーマーガアに進化する」ことに驚いたという坪島は、その進化の過程を50数個のパーツを用いた可変金物で表現した。コロッとしたフォルムのココガラが、翼を大きく広げ、勇ましく空へ飛び立つアーマーガアに変身。会場では制作工程の様子も映像で紹介されている。 独特な造形と文様によって唯一無二の陶芸作品を生み出している陶芸作家・植葉香澄は、全身にカラフルな文様を施したポケモンを制作。《唐草文サルノリ》《火炎文ヒバニー》《水文メッソン》《光火彩文グラードン》、そして東京展から新作として加わった《蔦唐草文ジュペッタ》《蒼炎文ヒトモシ》。ポケモンの魅力と吉祥のサインである文様が融合し、鑑賞者に幸福感を届けてくれる。 各アーティストが独自に研究・考察・解釈を重ね、思い思いに作品へと昇華させた約80点のポケモン。工芸の技、そしてポケモンは、これからも世界を驚かせ続けるのだろう。 「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」 会期:開催中~2025年2月2日(日) 会場:麻布台ヒルズギャラリー 開館時間:10:00~19:00(金、土、祝前日は~20:00)※入場は閉館の30分前まで 休館日:12月31日(火) お問い合わせ:azabudaihillsgallery@mori.co.jp ©️2024 Pokémon. ©️1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
川岸 徹