【いわき信組不正】地域支える自覚強めて(11月26日)
いわき信用組合で発覚した迂回[うかい]融資や横領は、営業店を置くいわき市、双葉郡の住民や事業者に衝撃を与えた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興を最前線で支えてきた金融機関の一つであり、地域経済への影響を危ぶむ向きもある。不正を長期にわたり公にしなかった体質を含め、旧経営陣や一部職員の問題と片付けずに全容を明らかにし、再発防止に努めてほしい。 いわき信組によると、旧経営陣が2008(平成20)年7月ごろから2011年2月ごろまで、最大の融資先だった市内の企業に総額10億円を超える迂回融資をした。業績悪化で融資基準を満たさない状態だったため、この企業や信組の役員の家族らへの貸し出しを装う形で資金繰りを支えた。当時は他にも業績不振の大口融資先があった。破綻が相次げば信組の深刻な経営危機につながると考え、不正に及んだとしている。 さらに2014年7月、当時の支店係長が端末を操作して4500万円余りを着服し、旧経営陣はその事実を把握しながら隠蔽[いんぺい]したことも分かった。2009年6月ごろには、当時の支店次長が金庫から約20万円を着服して数時間後に返却したが、支店長は本部に報告しなかったという。迂回融資と2件の横領はいずれも今年10月、元職員を名乗る人物が交流サイト(SNS)に投稿したのをきっかけに発覚した。弁護士らによる第三者委員会が原因や類似事案の有無などを詳しく調べるが、その内容をつまびらかに発信する姿勢は重要だ。
いわき信組は、県内外の銀行や信用金庫が割拠する地域にあって、幅広い業種の中小事業者に寄り添う「いわしんさん」として親しまれてきた。震災、原発事故、豪雨被害、新型コロナ禍からの経済再生が道半ばにある中、実効性のある再発防止策を練り上げ、信頼を取り戻す必要がある。 人口減少や産業構造の変化、長く続いたマイナス金利などの影響により、金融機関の役割は多様化しつつある。融資で利ざやを得るビジネスから踏み込み、取引先の人材確保、事業承継、新分野開拓などの課題に対応する力が一層求められている。持続可能な地域経済を築く上でも、透明度の高い健全経営は欠かせない。(渡部育夫)