ガスト、1990円の“フレンチ”が話題 「正直、原価は…」ガストに聞いた低価格のワケ
進藤佳明シェフ「フランス料理は敷居が高いと思われがち」
ファミレス大手のガストが、2025年1月22日(予定)まで、手頃な値段でフレンチを楽しめる「至福のフレンチコース」を提供、好評を博している。コースは5年連続でミシュランガイドの一つ星を獲得した進藤佳明シェフが監修。税込1990円という価格で、カジュアルフレンチをリーズナブルに楽しめるという。なぜ、これほどの低価格でフランス料理を提供できるのか。ガストを運営する株式会社すかいらーくホールディングスと進藤シェフに、メニュー考案の経緯やオペレーション面での工夫を聞いた。 【写真】ガストが提供する「至福のフレンチコース」の料理 11月21日から提供が開始した「至福のフレンチコース」は、前菜、スープ、メイン、デザートがついたコースメニュー。税込1990円という手頃な価格でありながら、こだわりが詰まったメインのハンバーグソースには黒トリュフが使用されている。注文方法は通常のタブレット式と変わらないものの、提供については、ガスト各店で導入されているネコ型配膳ロボットを使用せず、店舗のスタッフが1品ずつ丁寧に提供するという。 メニュー開発のきっかけは、超一流料理人が商品をジャッジするTBS系テレビ番組『ジョブチューン』での進藤シェフとの共演。ガストのメニュー開発を担当する内田道敬さんは、「ガストでも特別感を味わえるようなお料理を出せたらいいよねという話の中で、今回の話になりました」と経緯を語る。 約半年間にわたる試行錯誤の末、コースが完成したが、その過程では多くの課題があったという。特に、全国に1200店舗以上を展開するガストで、店舗ごとに同じ品質を維持し続けることは大きなテーマだったと振り返る。 「フレンチのシェフが毎回料理を作るのを横で見ているわけにもいかない、それがレストランとファミリーレストランの違いです。どこまで品質を維持できるかに、非常に時間をかけて検討を重ねました。セントラルキッチン(複数のレストランに大人数分の料理を提供するための集中調理施設)は食品工場ではなく、あくまでもレストランの裏方の仕込み場。本来は各店舗で行うべきソースの仕込みをセントラルキッチンで一括して行うことで、安定した味を各店舗に提供できるようにしました」(内田さん) 進藤シェフがオーナーを務める白金台の「Restaurant L’allium」では、ランチのハーフコースが6500円、ディナーのコースは13000円からとなっており、今回の税込1990円のコースとの価格差は明らか。どのように低価格を実現したのか。 「正直、原価はすごくかかっています。食材も厳選した品質の良いものを使っていますし、黒トリュフやホタテなど、決して安く仕入れられているわけではありません。自社のセントラルキッチンを活用したり、ホタテをすかいらーくグループの和食チェーン『夢庵』でも使うことで、一括して仕入れてコストを抑えています。こうした仕入れ方法や量の調整を行うことで、すかいらーくならではの効率的なスタイルが実現できました」(内田さん) 販売開始後、ネット上では「食べてきた」というレポートが多数投稿されている。こうした反響について「思っていたよりも反応をいただけていると感じています」と内田さん。商品の味や品質についても、好意的な意見が多いという。 一方、ネコ型配膳ロボットを使用せず、店舗スタッフが1品ずつ丁寧に料理を配膳するという提供スタイルを巡り、SNSの投稿が物議を呼んだことも。オペレーションの面で店舗スタッフの負担となっている部分はないのだろうか。 すかいらーく広報室の北浦麻衣さんは「今回のフレンチコースは、お客様に体験も含めて楽しんでいただくということを重視しており、とりわけ“人によるサービス”の部分に注力しています。ガストでは、例えば注文用のタブレットや配膳ロボットの導入、セルフレジ、テーブル決済など、従業員が働きやすい環境作りに力を入れており、こうした取り組みはお客様の利便性向上にもつながっています。これらの取り組みを進めることで業務を効率化し、その分の時間でお客様へのサービスや体験価値をさらに高められるよう努力しています」と説明。他の部分とのメリハリをつけることで、付加価値の高いサービスを提供できているという。 監修した進藤シェフは、2012年に白金台のフレンチレストラン「ジョンティ アッシュ」の料理長に就任すると、5年連続ミシュランガイド一つ星を獲得。18年に満を持して独立、自身の集大成となる「Restaurant L’allium」をオープンした。今回の企画は「さまざまな世代の方たち、特に若年層にフランス料理を知っていただく良い機会」と前向きに捉えており、「なぜかフランス料理は敷居が高いと思われがちなので、普段からカジュアルに接することで親近感が湧くと良いと考えています」と語る。 日本では、フレンチ料理に対し「まだまだテーブルマナーにおいて、堅苦しいと思っている方もいます」と本音も。「今回の企画によって若い世代からテーブルマナーを感じるきっかけになり、フランス料理を身近に感じるようになると、日本の食文化にも良い影響が出ると思います」と期待感を込める。 フレンチ料理を食べるのが初めてという人に向けては、「フランス料理は作法が分からないから嫌だとよく言われます。もちろん他国の文化ですので分からないのは当然です。ですが最低限のマナーさえ理解すればどんな食べ方や頼み方でも良いと伝えています。ワインも魚に赤ワインだって良いのです。自由に食事を楽しんだ方が良いです」と柔軟な楽しみ方を推奨した。
ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム