亡き父と認知症の母に思いを込めて モンゴル歌謡で“生命の真実”を歌う
―この歌を歌うとき、だれを思い浮かべますか?
八代:父と母を思い浮かべて歌います。父は亡くなり、母は今、少し認知症で、寝たきりです。昨日、会いましたよ。「あたしだよ、亜紀だよ、亜紀だよ、お母さんとお父さんの子供だよ」って言ったら、いつもならわからないはずなのに、「あー、無理せんば」って急に思い出したように言ってくれたんです。 認知症になる前は「いつも仕事が忙しいから、体壊さないように、無理しないようにね」っていつも言ってくれていたんです。昨日は、そのことをふと思い出したのかもしれませんね。 歌の途中に所属事務所社長の希望であんこ、浪曲「夢か現か幻か 諸行無常と言うけれど♪~」というのを入れてます。レコーディングのとき、楽譜に「浪曲風に、自由に」としか書かれていなくて、はじめはわからなくてどうしよう、と思っていたのですが、 「いつもあなたがお父さんが歌ってくれた浪曲と言って、僕たちに歌ってくれていた歌、それを歌って」と言われて自由にレコーディングしました。そうしたら、みんな鳥肌立っちゃって。父はもう亡くなっているのですが、その年齢を私が追い越し、これから先もまだまだあると思わせてくれる。これこそ「JAMAAS」なんだな、と思いました。それだから浪曲を入れたいって思いが、私にもありました。
―初めてのモンゴルでのコンサートはいかがでしたか?
7月31日に首都・ウランバートル市内のオペラハウスで「文化交流コンサート」をしました。この建物は終戦後に日本人抑留者たちが建てたもので、頑丈なつくりで外装も内装もすばらしいかったです。たくさんのお客さんが来てくれました。 滞在中、ショッピングの時間を3時間くらいしか取れなかったんですが、街中を歩いていると、「コンサート、見に行きましたよ。すごくよかった」ってモンゴル語で声をかけられました。すごくうれしかったです。 8月3日にはウランバートルから100キロくらい離れた13世紀村というチンギス・ハーンがいた時代の街並みを再現した場所があってそこで、コンサート、献歌をしました。大草原の真ん中で観客は誰もいません。岩の上のステージで歌い始めたら、どこからともなくメェメェメェ~って羊や馬がいっぱい集まってきました。風と声と空と大地が一体化したコンサートでしたね。声の周波数、動物たちにも届いたのでしょうね。日が落ちて、最後に「舟唄」を歌い終わったら、帰っていきました。