アニメは“演出面”が評価される時代に? 『マケイン』『義妹生活』に感じるリアリティ
2024年の夏アニメは、ライトノベル原作のアニメが高い人気を獲得した。国内で特に話題となったのは、『【推しの子】』第2期を中心に『時々ロシア語でボソッとデレる隣の席のアーリャさん』、『負けヒロインが多すぎる!』などだ。しかし、海外に目を向けると国内とはやや異なり『負けヒロインが多すぎる!』と『義妹生活』がTOPを争うほどの人気を見せた。 【写真】負けヒロイン3名登場の『負けヒロインが多すぎる!』ビジュアル 『負けヒロインが多すぎる!』と『義妹生活』に共通するのは、他作品にない独自の実写的な演出が光る点である。ヒロインの描かれ方やテンポ感は正反対ではあるが、どちらも“画でみせる演出”が取られており、その2作が国内外で高評価を得ているのは興味深い。本記事ではこの2作の演出や共通点を紹介しつつ、近年のアニメにおける評価や描き方の変化を分析していく。 ●『負けヒロインが多すぎる!』のリアリティラインを追求した演出 『負けヒロインが多すぎる!』で特徴的なのは、説明セリフがほとんどなく1カットごとの情報量で見せている点にある。説明セリフが多用されるとどうしても冗長になってしまうが、『負けヒロインが多すぎる!』はそれがない分、テンポよく話が進んでいく。 第1話では、ヒロインの八奈見杏奈たちが階段を降りてから、ぐるっと廊下にカメラが向くカットがある。実写作品ではよく見かけるカメラワークではあるが、アニメで用いるには、その分の作画の手間がかかってしまう。 さらにキャラクターごとに影の付け方に違いがあるのも面白い。本作では、屋内のシーンでも明るい場所と暗い場所、日向と部室とで影の明るさや色を変えている。ロケハンもかなりこだわり抜かれており、アニメで描かれる愛知県豊橋市の風景は実際の風景と酷似している。また第9話では「姫宮華恋バストコーディネーター」というスタッフが存在し、胸の動きまでこだわり抜いて描かれていた(※)
『義妹生活』の解像度を高める「定点カメラ」的な演出
『義妹生活』は意図的にスローな展開にされており、テンポよく話が進む『負けヒロインが多すぎる!』とは対照的な作品だ。 『義妹生活』は親の再婚により義兄弟となった2人の関係性を描いた作品だ。2人の些細な関係性の変化をじっくり見せていく演出が取り入れられており、同じ構図・レイアウトを重ねている場面が多い。まるで2人の生活を「定点カメラ」で切り取って見ているように感じさせる。 また、日常の些細な動作も切り取っているのが特徴だ。第1話目では、ヒロインの綾瀬沙季が、新しい家の照明のスイッチの場所が分からず、間違えて廊下の電気をつけてしまうシーンが長めの尺で描かれている。人によっては退屈に感じられるほどに2人の関係性の変化や人間性をじっくり描いているが、この手法は後々効いてくる。例として第3話では、初めてヒロイン側の視点が日記形式の独白で描かれる。ここで一気に物語の解像度が上がり、じっくり積み重ねてきたものが爆発するのだ。もし途中で視聴を辞めた方がいれば、ぜひ見てもらいたいシーンである。 ラブコメや学園ものの作品は、キャラクターの心情を積み重ねることで見えてくるものがあり、面白さも増していく。しかしこの2作は、独自の演出によって視聴者ごとの解釈の幅を実現し、直接語る以上の情報を積み重ねているのだ。 ●「神作画」の次は“演出面”が評価される時代に? 日本のアニメは2010年代後半から『鬼滅の刃』『呪術廻戦』に代表される、絵が綺麗で滑らかに動くいわゆる「神作画」の作品が高く評価されるようになった。それに伴い、他作品も一昔前なら映画でしか見られなかった高クオリティの作画が、TVアニメとして放送されるようになった。 しかし「神作画」にも見慣れてくるもので、今や作画が良いのは当たり前かつ大前提だ。それゆえ神作画だけでは通用せず、演出面が一層評価される時代になっているように感じる。今期でいうと、TVアニメ『逃げ上手の若君』は、随所に実写映像を取り入れた演出が不気味さやワクワク感を醸し出しており、作品の面白さを底上げしている。 『負けヒロインが多すぎる!』『義妹生活』は、どちらも原作の魅力を活かしつつ、実写的リアリティを追求した作品だ。この2作が国内外で高く評価されたのは、アニメにリアリティを求める人が増えているためで、各アニメスタジオも3次元のようなリアリティを追求する流れになっているのではないだろうか。 2024年の秋アニメは、新作・続編ともに話題作が目白押しだ。作画やストーリーの良さだけでなく、各作品がどのような演出を取り入れているかも注視して放送を楽しみたい。 参照 ※ https://x.com/amamori_takibi/status/1832628399287988483
倉嘉リュウ