『パンのまち』神戸でSDGsな古代小麦プロジェクト!アイ工務店をはじめ地元企業とそこで働く“人々の縁”が紡いで完成したパンが子ども食堂で提供
みなさんは兵庫県神戸市が『パンのまち』と呼ばれていることを知っていますか?慶応3年(1868)の神戸港開港後、旧居留地に外国人職人がパン屋を開業しました。それ以来、神戸市ではパン文化が広がっていきました。そんな神戸市でパンに欠かすことのできない材料をつくるプロジェクトがスタート!それが『古代小麦プロジェクト』です。 今回、神戸市産100%の古代小麦を使ったパンを子ども食堂で提供されると聞き、本プロジェクトの立ち上げに携わったメンバーの一人である、神戸市 企画調整局・SDGs推進課 課長の長井 伸晃さんにお話をお伺いしました。 ―なぜこのプロジェクトでは、古代小麦を育てることになったのですか? 神戸市というと『都市部のおしゃれな街』をイメージされる方も多いかもしれません。しかし、総面積550㎢以上もある神戸市は、里山エリアが多くを占めています。1つの都市でどちらも楽しむことができるというのが神戸市の良さであり、強みです。 各エリアで様々な課題を抱えていますが、今回、里山をターゲットとしてSDGsの取り組みを行ったのは“耕作放棄地”が課題となっているためです。これは、農家さんの高齢化や担い手がいなくなることによって使われなくなり、草が生い茂ってしまった土地のことです。“自然”と“里山”というのは、一緒のように思うかもしれませんが、実は違います。神戸の里山は、人の手が加わってこそ、維持することができるのです。 人の手が加わらない土地が増えていくと、どのような影響が及ぼされると思いますか? 例えば、災害に弱くなったり、生物の多様性が保たれなくなったりします。整備されず、きれいな水が保たれなくなると、その環境に対応できる生き物が少なくなっていきます。 人手が足りないという状況の中でも、ある程度の強さがあって、付加価値も生み出すことができる作物という点からリサーチを行った結果、古代小麦にたどり着きました。 小麦の原種である古代小麦は、殻が固く製粉までに手がかかるのですが、病気に強く比較的育てやすいと言われている植物です。また、日本では育てられている地域がほとんどなく希少な作物なので、うまく加工すれば付加価値をつけることもできると考えました。 ―古代小麦は作りやすい作物なのでしょうか? プロジェクトに参加しているメンバーが、週末に草刈りなどのメンテナンスを行いました。できるだけ無農薬で作ろうとしていたので、雑草などにも一苦労もありましたが、古代小麦は乾燥地帯の食べ物なので水はあまり必要ないという点では、とても育てやすかったです。 良い面ばかりお伝えしましたが、日本で古代小麦が広がらない理由は様々あります。梅雨と収穫の時期が重なるのでカビが生えやすくなること、殻が固いので製粉することが難しいこと、一般的な小麦粉とは異なるクセがあるのでパンにするのにも苦労することなどです。 このプロジェクトは、様々な人のバトンが渡って何とか形にすることができました。関わる人々全員が繋がり、バトンが1周して戻ってきたことで、子ども食堂で古代小麦パンを提供することができました。 ―やはり、耕作放棄地で小麦作りをしようと思ったのは、パンのまちだからこそですか? 里山で作った作物が、近くで消費されることが必要だと考えました。 パンのまちと呼ばれていますが、現在使われている原材料のほとんどは、輸入品や日本各地で作られています。地元で作られている食材で作ることで“究極のパンのまち“といえるのではないかなとも思いました。 現在も米不足が起こっていますし、今後も何が起こるか分かりません。地産地消に対応するモデルをつくるという意味でも、本プロジェクトは意義があるのではないかと考えています。 ―古代小麦を選ぶ過程で、様々な品種や作物を育てたりしたのですか? いえ、一発目だったので、試行錯誤の連続でした。(笑) 事前にリサーチをして、「可能性があるのはこれじゃないかな?」と仮説を立てつつ、幸い農業に詳しい人が身近にいたのでアドバイスをもらいながら育てました。 種もしっかりとした品質のものを手に入れなくてはいけません。それも様々なご縁をたどって、農家さんに分けていただけたことにも、とても感謝しています。「社会課題の解決につながるのであれば」とか「子どもたちの笑顔のためなら」など、プロジェクトに共感して協力してくださった方々がいたからこその結果です。 今後は、想いや共感だけでなく、無理なく持続的なビジネスができる仕組みにしなくてはいけません。まだまだ、始まったばかりです! ―本日は、子ども食堂で振る舞われましたが子どもたちが食べる姿をみてどのように感じましたか? 草刈りからスタートして、大変なこともたくさんありましたが、子どもたちの笑顔をみて今までの苦労が報われました! 未来の担い手である子どもたちが「いいな」と共感し、関わってくるプロジェクトであってこそだとおもうので、こういう機会が必要だと感じています。自宅に帰って家族に話してくれたら、応援してくれる人も増えると思うので! 実は、育てる過程でも子どもたちが大活躍したんですよ!麦は、強くするために麦を踏む麦踏みという工程があるのですが、大人だと重すぎるので子どもの重さがちょうどいいんです。「どんどん踏んでー!」と手伝ってもらいましたし、種まきも一緒に行いました。そうやってプロセスを知ることで、スーパーやベーカリーで売られているものが、当たり前ではなく、たくさんの人の支えがあってできているというのも知ってもらいたかったので、自分の子どもたちも連れて行いきました。 これからは自分たちの子どもだけではなくて、たくさんの子どもたちにもこの取り組みを知ってもらえる機会も作りたいなと思っています。 ―神戸産の古代小麦を各地で食べられる日も来るのでしょうか? 神戸は、北海道のように広大な農地があるわけではなく点在しています。一方で、最初にもお伝えした通り、神戸は都市部も里山もある地域です。その強みを活かした神戸ならではの価値になればいいなと思っています。 例えば“神戸に来なければ食べられない!” 希少性の高いものとして作ることで、うまくブランド化していけないかと考えています。 ― 観光客の誘致といった面からも、街を活性化できる仕組みですね!今後、プロジェクトの展開はありますか? もちろんです!SDGsな取り組みということで、この取り組み自体が長く続いていく仕組みづくりを行っています。その仕組みにはプロジェクトを支える担い手が非常に重要となってきます。 耕作放棄地の再生から古代小麦の栽培、パンへの加工、そして子供たちをはじめ市民の方々に届けるまでに様々な課題がありましたが、企業版ふるさと納税を通じてサポートしていただいた神戸創業のアイ工務店様はじめ携わってくださった方に、とても感謝しています。このプロジェクトに関わってくれた方々が10月1日から5回にわたって特集されるABCテレビ『あすエール~輝くまちへ~』で紹介されます。この特集に登場人物誰が欠けても成立しなかったプロジェクトでした。 次の1年に向けて話し合いをしているのは、新たな担い手です。市の職員だけが取り組んでいても、持続性がないので、私たちが作った仕組みを担ってくださる方が必要です。地元の農家さんや学生さんたちの中で、担ってみたいという人たちを今後増やしていき、自然と神戸の中で広がっていくような仕組みづくりをしたいと思っています。 続いて、子ども食堂の場を提供しているアイ工務店の岡本喬さんへ今回のプロジェクトに参加した経緯などをお伺いします。 ―アイ工務店様はどのようなカタチでプロジェクトに参加されたのですか? 神戸市北区にあるモデルハウスを、毎週金曜日に子ども食堂の場所として無料で貸し出しています。アイ工務店としても初の取り組みでしたし、業界的にも、住宅展示場で子ども食堂を実施するというのは珍しい取り組みだと思います。 ―なぜ子ども食堂として貸し出してみようと思ったのですか? 私たちは常々、未来を担う子どもたちの楽しんでいる姿や笑顔が見られることを大切にしている会社です。“地域の子どもたちが気軽に立ち寄れるモデルハウスにすること”=“地域に愛される会社になること”ではないかと考えました。 実際に、前回参加していただいた方から「モデルハウスに来たことがほとんどなかったので、経験できてとても楽しかった」というお声も頂くなど、子どもたちが笑顔になれる場所の提供を実現することもできました。 「モデルハウスに行こうや!」がみんなの合言葉になっていくと嬉しいです! ―今回神戸市へ「企業版ふるさと納税」の寄付に至ったのはどうしてですか? アイ工務店は、神戸市で創業した会社なので、この街に貢献したいという思いがありました。 私たちの寄付の活動から様々な政策や活動に使われているのを見るとどれも嬉しいのですが、特に、未来を担う子どもたちのために使っていただけると非常に嬉しく感じます。神戸市は人口も減ってきているので、みんなが住みたい街になることで、人口の増加にも繋がると嬉しいです。 ―この経験を今後、どのように住宅づくりに活かしていきたいですか? 子ども食堂を実施することで、たくさんの子どもたちがこの場所に訪れて頂くことができます。どういった導線で入ってきて、どういう行動をするのかをつぶさに見られるという経験はなかなかできません。この機会に、観察をすることで、子どもたちにとっても危険な場所をなるべく作らないなど重要なポイントを私たちの知見としていきたいです。 自治体と地元の人々がタッグを組むことで、神戸の歴史的文化が未来に繋がっていく取り組みをお伝えしました。みなさんの街にはどんな歴史があり、大切に守り繋げられていますか?
歴史人Kids編集部