自分を肯定する情報だけを正しいと思う人の結末 考えを修正できる人とできない人とで広がる格差
勅使川原:その瞬間に、理解から離れてしまっているのに。 舟津:そうなんですよ。勅使川原さんの問題意識でいえば、「能力とはこういうことで、このテストで完璧にスコア化できますよ」と言った瞬間、能力とは別のものになっているし、理解を離れているんですよね。そういうツールにはもちろん意味もありますけど、完璧でないことを理解しないと、それを絶対視する傾向が強まってしまう。 勅使川原:ご著書でも、現代社会に対する処方箋を出されてはいますが、ないよりはましだから書きました、ってただし書きがありますね。そこの潔さが特にかっこいいと思いました。
舟津:その点はすごく悩みました。現代はYouTubeやTikTokに象徴されるように、強い効果音と刺激的なサムネイルで引きつける「アテンション・エコノミー」がますます強まっています。強くてわかりやすい答えが要求される。だから本書でもやはり何らかの「答え」を示す必要はあると思ってはいて、ときに強い言葉を使わないといけない。「三行でまとめてくれ」という人にもこれがポイントだ、とわかるように。 ただ、そうすると「何々が重要という話『しか』書いていない」と受け止められることもある。読者の要望すべてには応えられないのです。だからこそ、ある読者の方に「小さな子どもが見ているYouTubeのように刺激的な映像で伝えるのではなく、丁寧に畳みかけてくる」と言っていただけたのがとても嬉しかったです。
■ファストに伝わらない「知の形」のよさ 勅使川原:若者を論じた本って、「今の若者はこう」「だから、こう接するべき」みたいにさっさと結論を出すことが期待されるジャンルだと思うんですよ。逆に、丁寧に畳みかけているという感想は、きちんと読まないと絶対に出てこない。そういうふうにじっくり読んでくれる人がいらっしゃるのは、希望が持てますね。それに、発売から結構時間が経っていると思いますが、いまだに売れている印象です。