「ワンオクがどこにも見えない!」 大規模ライヴ「見切れ」問題の解決策を考える
顔が見えない!
ライヴに足を運んで座席に失望した経験を持つ方は多いだろう。 見切れ席ではないが、筆者はマライア・キャリーの初来日(1996年)を東京ドームの最後列で観たことがある。自分の後ろには誰もいない。広告看板だけ。アーティストは遥か彼方。ステージはバックスクリーンあたりにつくられ、席はバックネット裏スタンドの上の上なので、距離は200メートルくらいだろうか。山の頂上からふもとの祭りを見ている気分だ。ステージ上のどの人がマライアなのか、モニター画面と照合しながら音楽を聴いた。 当時のチケット価格を見ると、席は9000円と8000円の2種類のみ。2階スタンド最後列とアリーナ席がほとんど同価格であることに不公平感を覚えないことはなかったが、チケットを手に入れられたのでよしとした。 つい最近はジャズ・ヴォーカリストでピアニストのダイアナ・クラールのライヴを昭和女子大学人見記念講堂で観た。いいライヴだった。同日、ダイアナの濃いファンである知り合いも来場していた。チケット代は2万円。彼の席は5列目。開演前、とても興奮していた。 ところが実は彼の席は下手側だった。つまりダイアナの顔は見えない。ピアノを弾き歌う背中を2時間見続けて帰路についた。ジャズ・ピアニストは開演中、ずっと同じ場所にいる。ふり向くことはほぼない。その結果、会場の3分の1くらいのお客さんは背中を見続けることになる。 その知人には同情した。しかし、しかたがない状況ではある。ステージを回転式にでもしない限り解決しない。ダイアナがやる曲はほとんどがバラード。回転ステージなどあり得ない。雰囲気丸つぶれで、そもそも回りながらまともに演奏できないだろう。
ミック・ジャガーは偉い
では、どうすればいいのか――。解決策の1つは、少しでも見えるような工夫をすることだろう。 もっともシンプルなやり方は、アーティストが動き続けることだ。ローリング・ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガーは全米ツアー中だが、80歳の今もスタジアムのだだっ広いステージを上手から下手まで使って歌っている。 ツアーによってはセンターステージをもうけ、360度にアピールする。そのために日ごろからランニングを行っているらしい。これならば真横に近い席でも、時々は彼の姿を見ることができる。高齢のミックがわざわざやって来てくれるのを見て、満足しないはずがない。 ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで、ブルース・スプリングスティーンのライヴをステージ背後のスタンドから観たことがある。そこしかチケットが手に入らなかった。当然、開演中ずっと本人やバンドの背中を見ることになった。ただしサービス精神旺盛なスプリングスティーンは、頻繁に後ろを振り向いて歌い、こぶしも振ってアピールしてくれた。嬉しかった。 ステージの作りその他、何らかの理由で動きまわれない場合には、ステージ横のお客さんのためにモニター画面を設置するというやり方を取っているケースもある。これならばステージ上で何が起きているかはわかるので、ライヴに参加した気持ちは持てる。 このくらいの配慮があるだけでも満足度はかなり変わるかもしれない。