子どもの自殺が2022、2023年ともに500人を超えるも学校は硬直的。生徒の自己肯定感は低く、学力、運動能力、年齢でラベリングされ、序列化される現実
自殺予防因子その二──人物本位主義をつらぬく(地位や学歴、家柄を重視しない)
こうした地方の小さい町であれば、年功序列などの文化がより根強く残っていそうであるが、海部町では地位や学歴・家柄に囚われず、能力があると見れば新しく町に引っ越してきた新参者をリーダーに抜擢するなど大胆な人事がよく行われるという。 実際、教育長に商工会議所に勤務していた41歳の、教育界での経験は皆無という男性が抜擢されたりと、民間人を公立学校の校長に採用するという都市圏でも比較的新しい取り組みは、ここでは約30年前から行われてきた。町の相互扶助組織でも、年長者が変に威張ることはなく、年少者であっても妥当だと思われた意見は即採用される。
自殺予防因子その三──どうせ自分なんて、と考えない(自己効力感が強く、主体的に社会活動に関わる)
日本財団の調査結果(図表1-3、20ページ)が示したように、日本では、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」という感覚(政治的有効性感覚)が、他の先進国の若者と比べて非常に乏しい(26.9%が「変えられると思う」と回答)。だが、この町は異なる。 「自分のような者に政府を動かす力はない」と思いますか、という質問に対し、「そのような力なんてない」と感じている人の比率は、海部町で26.3%(つまり73.7%が動かす力があると回答)であったのに対し、自殺多発地域であるA町では51.2%と2倍近く離れていた。 実際、海部町では主体的に政治に参画する人が多いという。自分たちが暮らす世界を自分たちの手によって良くしようという基本姿勢があり、行政に対する注文も多い。ただし、「お上頼み」とは一線を画しており、畏れの対象とは見ていない。首長選挙も盛んで、地方の小規模な町には珍しく、海部町には長期政権の歴史がない。
自殺予防因子その四──「病」は市に出せ(すぐに助けを求める)
海部町の人がいう「病」とは、たんなる病気のみならず、家庭内のトラブルや事業の不振、生きていく上でのあらゆる問題を意味している。そして「市」というのはマーケット、公開の場を指す。 体調がおかしいと思ったらとにかく早めに開示せよ、そうすれば、この薬が効くだの、あの医者が良いだのと、周囲が何かしら対処法を教えてくれる。まずはそのような意味合いだという。 同時にこの言葉には、やせ我慢すること、虚勢を張ることへの戒めがこめられている。悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いきってさらけ出せば、妙案を授けてくれる人がいるかもしれないし、援助の手が差し伸べられるかもしれない。だから、取り返しのつかない事態に至る前に周囲に相談せよ、という教えなのである。