“改悪”論争「青春18きっぷ」に駅員から“廃止してほしい”の声も…「ルールが複雑すぎて利用客とのトラブルが絶えない」という知られざる実態
「途中下車印を捺してほしい」がとても困る
これまでの青春18きっぷは自動改札を利用できないため、利用者は駅の改札口で駅員と接触する機会があった。そのため、利用者が増える夏休みや冬休みの期間は改札口が慢性的に混雑していたし、駅員と利用者の間で小競り合いはたびたび発生していた。従来の青春18きっぷで特に厄介だったのが「途中下車印を捺してほしい」という要望だと、あるJRの駅員は話してくれた。 「青春18きっぷのユーザーで、途中下車の記念に途中下車印を集めている人は多いです。駅名が書かれているので確かに記念になりますが、本来は青春18きっぷに捺す必要はないんですよ。あくまでもサービスで捺しているのです。ただ、困ったことにきれいに捺すのはなかなか難しいですし、改札口が混雑していると対応できないことも多い。すると、怒り出す利用者が必ずいるのです」 駅員によると、現在の感熱紙仕様の切符は途中下車印をきれいに捺すのが難しいという。インクが乾く前に触ればすぐに擦れてしまうし、表面がつるつるしているのでインクの乗りがそもそも悪く、駅名が潰れて見えなくなってしまうこともあるそうだ。すると、「どうしてくれるんだ!」と怒鳴りだす利用者がいるという。「する必要がないことをサービスでやっているのに、怒られてしまってはたまったものではない」と、前出の駅員。 自動改札に対応しても、途中下車印を求める要望はあるはずだ。そういう要望にはこれからどう対応するつもりなのか。「求められたら捺しますよ。私たちも鉄道に乗って思い出を作ってくれるのは嬉しいですし、下車印を通じてコミュニケーションをとるのは本来であれば楽しいことなのです。しかし、一部の方のせいで悪い印象を持ってしまうんですよね」
青春18きっぷ利用者の意識改革が必要だ
筆者は取材に伴う出張が多いうえ、個人でも旅行が好きである。しかし、旅先で駅員と利用者が言い争いになっているのを見かけると、残念な気持ちになってしまう。駅員に喧嘩腰で絡む人で多いのが酔っ払いやコワモテな雰囲気の人だが、明らかに鉄道ファンとみられる人(列車のストラップや缶バッジをリュックにつけていたり、途中下車印がびっしり捺された青春18きっぷを手にしたりしているのですぐわかる)も、多いと感じる。 2000年以降、鉄道が漫画やテレビ番組で取り上げられる機会が増え、現在もブームは続いていると考えていいだろう。前出の駅員はこのこと自体は歓迎しつつも、「モラルのない利用者が増えた。特に多いのが青春18きっぷの利用者」と語っている。青春18きっぷのシーズンは憂鬱になる駅員は少なくないようだ。 青春18きっぷの廃止論は以前から取り沙汰されていたが、このたびの改変が鉄道ファンに与えた衝撃は非常に大きかった。しかし、その一方でSNS上では「仕方ないことではないか」という声も聞かれる。今回の改変は、モラルのない利用者が各地でトラブルを引き起こしていることと無縁ではないという指摘は多い。 青春18きっぷが発売された国鉄末期と異なり、現在は新幹線が各地に延伸され、ローカル線が次々に廃止されている。青春18きっぷの長所を生かした旅をすること自体がだんだん難しくなっているし、働き手不足で鉄道会社も人材難に直面している。そんななか、青春18きっぷは鉄道会社から利用者へのサービスのような存在だった。ゆえに、利用者のモラルが改善されなければ、廃止されるのも時間の問題なのかもしれない。 ライター・宮原多可志 デイリー新潮編集部
新潮社