【今週はこれを読め! SF編】ロマンタジーという新ジャンルの勃興~レベッカ・ヤロス『フォース・ウィング 第四騎竜団の戦姫』
アメリカで爆発的なヒットを記録した新作ファンタジー。竜と魔法が存在する世界における、死と隣りあわせの訓練と戦闘、仲間との出会い、それと裏腹の疑念や裏切り、そして身を焦がすような恋......。いまアメリカで流行しているジャンル「ロマンタジー」は、本書とともに誕生したといっても過言ではない。この新造語は、ロマンス×ファンタジーの謂である。 ナヴァール王国は、隣のボロミエル王国と戦いをつづけていた。主人公ヴァイオレット・ソレンゲイルは本を愛する若い女性。本人はバスギアス軍事大学の書記官科へ進むつもりだったが、母親の命によって騎手科の入学が決まる。母はナヴァール軍の司令官であり、竜騎手としても実力者。表立って逆らえる者はいない。 騎手科の学生はエリートだが、三年間の課程を通して苛酷な試練が課せられ、生きて卒業できる者は四分の一程度だ。なにしろ、騎手科の候補生になる以前の段階で、志願者全員に危険な橋を渡るテストがおこなわれ、ヴァイオレットのときはここで三百六十八人のうち六十七人が脱落した。二割が死んだのだ。 どうにか入学を果たし、初期の訓練(ここでも何割かが死ぬ)をくぐり抜けても、竜に選ばれなくてはなにもならない。竜は人間が使役する動物などではなく、むこうが人間を選んで絆を結ぶのだ。気に入らない相手ならば無慈悲に焼き殺す。 首尾良く竜と絆を結べた場合、竜の媒介によって、竜騎手は魔法の力が使えるようになる。その力は竜の個性によって、さまざまだ。 さて、ヴァイオレットは頭が良く素早いが、体格的も膂力もほかの騎手候補生にはかなわない。そのうえ、あからさまに敵意を向けてくる者もいる(命さえ狙われるほどだ)。そんな状況をどうやって乗りきっていくか。これがこの物語序盤の展開だ。 そんななかで、彼女とつかず離れずの距離感でかかわりになる男がふたりいる。ひとりは、ヴァイオレットの幼なじみで騎手二年のデイン・エートス。彼は生真面目で優しく、ヴァイオレットの安全のため、いまからでも書記官科へ転入するようしきりに勧めてくる。もうひとりは、騎手科三年で誰からも一目を置かれるゼイデン・リオーソン。こちらはヴァイオレットへの当たりはきつく、「自分を鍛えなければ、それ以上強くはならない」と、あざけるように言う。 ヴァイオレットは力が弱く、本を愛する娘だが、性格はかなり勝ち気で、ときにデインを頼りにしたり、ときにゼイデンにときめいたりしながらも、どちらの言いなりになったりはしない。さすがヒロインだ。 ......という塩梅で、魔法学園ものとしても恋愛小説としても、かなりベタな展開の本書だ。ジャンルの王道を堂々と押し進みながら、物語に奥行きを与える重要な要素が投入される。それは、数年前に起こった反乱だ。 ナヴァール王国の一地方ティレンドールが独立を求め、蜂起したのである。この反乱は鎮圧され、首謀者のひとりであるゼイデンの父親は処刑された。その処刑を命じたのが、ヴァイオレットの母親ソレンゲイル司令官だった。いっぽう、この反乱によって、ヴァイオレットは兄ブレナンを失っている。兄は当時、竜騎手として同地へと赴いていたのだ。いっぽう、反乱者の息子であるゼイデンは、当時は子どもだったが、ナヴァール軍は監視する目的か、あるいは訓練中に命を落としてもかまわないからという判断からか、彼を強制的に騎手科へと入学させた。ゼイデンだけではなく、反乱者の子女たちにはすべて同様の処置がとられた。そういう事情で、騎手科のなかにティレンドール出身者が一定数いるのだが、彼らは複数人で集まることは禁じられている。 ティレンドールの反乱は、ヴァイオレットとゼイデンのあいだに確執をもたらすだけでなく、重要な伏線となって作品全体に陰影をもたらし、クライマックスに向かってじわじわと効いてくる。間違っても最後のページ(というかまさに最後の一行)を先に読まないように。まさかの急展開で、続篇への期待が大きく広がる。 (牧眞司)