「投資はギャンブルではないと思っていた」7億円の投資トラブルでどん底を見たTKO木本武宏が懺悔する“欲望の沼”
2022年7月、「FX(外国為替証拠金取引)」と「不動産」取引による約7億円の投資トラブルが報道され、芸能活動の休止に追い込まれたお笑いコンビTKOの木本武宏氏。「テレビ・ラジオの関係者、所属事務所、芸人仲間、家族友人関係など、数え切れないほどの方に迷惑をかけてしまった」と猛省する木本氏だが、仕事も多忙で順風満帆だったベテラン芸人は、なぜ投資にのめり込み、詐欺に騙されてしまったのか。 【写真】TKOの木本武宏氏と木下隆行氏 (*)本稿は『おいしい話なんてこの世にはない』(木本武宏著/KADOKAWA)の一部を抜粋したものです。 ■ すべては自分の欲望から始まっていた 投資トラブルが報道され、活動休止のさ中、僕は「どうしてこうなってしまったのやろう」と、さまざまな角度から自分を見つめ直しました。そのときに僕はずっと大事な場面で「欲望」に支配されて生きてきたんじゃないか? と思い当たりました。 芸人になったのも、周りから「キャーキャー」いわれ、モテたいという欲望からスタートしています。20代でそれが叶いましたが、30歳を迎える前から途端にそんな歓声から見放されるようになってしまいました。そこで、芸人としてのスキルをつけ焼き刃的に磨いていました。40代になると、楽して稼げないかと別の「欲望」が湧いてきました。 そんなときに、暗号通貨に出会ってしまいました。ある番組で暗号通貨のエンジニアさんとご一緒したんです。その方が、「木本さん、ビットコインは絶対に買ったほうがいいですよ」とささやきました。そこまでいうならと、何回かにわけて合計50万円ほど投資しました。 それが2017年でしたが、年末に向けてドカンと上がっていきました。僕が1ビットコイン(BTC)30万円前後で購入したものが、最高で233万2385円まで高騰します。短期間でおよそ8倍の値上がりです。
■ 50万円が400万円になった! 購入当初は、上がっては下がるの変動がありましたから、「きっちり勉強してうまく増やしていけたら、10年後にはこれだけの資産になっているはずだ。それだけ増えたら、あんなことも、こんなこともできる、税金も払っていけるだろう」などと皮算用までしていました。なによりも、安心して芸人生活が送れるんじゃないかと考えました。 それが一気に4─5倍となったときに、ドバーッとアドレナリンが出てきました。そうするともう、客観的で冷静な判断はできません。もう120%欲望に支配されていました。「こんなに増えるんやったら、もし1000万円入れていたら8000万円か。1000万円はどうやって作ったらええんやろ」なんてことばかり考えるようになる。 そんな中、2018年になると今度はガツンと下がり出します。いわゆるビットコインバブルが弾けました。 暴落したとはいえ、元手の50万円を下回っていません。でも、増えた数字ばかりが気になってしまい、けっして損はしていないのに、全身から脂汗が出るような感覚に陥りました。パニックになり、あれこれと場当たりのトレードを繰り返した末に、すべての暗号通貨を手放しました。 それをきっかけに資産運用の「欲」に目覚めてしまい、本を何冊も読んだり、ネットを漁ったりして勉強を始めます。堀江貴文さんの書いた本には、こんな記述がありました。 「お金に働かせる」 「なんて、素晴らしい言葉なんや」。僕の胸に突き刺さりました(じつはその読み方は浅くて、のちに堀江さん本人から「そういう意味じゃないよ」とツッコまれたのですが)。興味を持つと、とことんまで突き詰めたい性格の僕は、自然と投資に興味がある知人たちと、情報交換を兼ねた飲み会を定期的に始めるようになりました。 そんな折に、FX(外国為替証拠金取引)なるものを知ります。法定通貨だし、暗号通貨よりも安全だと説明されました(これも生半可な知識からくる勘違いにすぎなかったのですが)。 ただ、いろいろ勉強してみても、じっさいの取引をどうすればよいのかわかりませんでした。すると、ある人から「FXトレードの達人がいるよ」と紹介されます。それが、僕を奈落の底に落とすきっかけとなった、息子ほど歳が離れた20代のAという男でした。 彼のトレードする部屋に行くと、デモトレード画面を見せられました。日付をいうとチャートが出て、そこで彼がタイミングを計って売り買いをしました。すると、「木本さん、仮想取引ですけれどこれだけ儲かりました」と、こともなげに話すのです。 ほかの日についてリクエストしても、同じように結果を残しました。僕は「すげえ」と感動するばかり。自分でトレードして資産運用する自信がなかった僕は、Aに「資金を預けるから運用してもらえないか」と提案します。けっして、彼から投資を持ちかけられたのではありません。でも、欲に目がくらんでいた僕は、そいつが騙す男であると見抜けなかったのです。