【ラグビーコラム】トゥイッケナムを歩く。(中矢健太)
ロンドン中心部から電車で30分ほどの場所にあるラグビーの聖地、トゥイッケナム・スタジアム。1909年に開場して以来、ラグビー専用としては世界最大のスタジアムだ。6月22日、日本代表が国立競技場で対戦するイングランド代表の本拠地でもある。11月には、ここでイングランドと再戦する予定だ。 イングランド代表の試合日は8万人を超える観客が入り、アウェイチームを丸ごと飲み込むような雰囲気に包まれる。一昨年のイングランド戦前、ジャパンのプロップ・稲垣啓太は「8万人が全員敵」とチームミーティングで語っていた。(JAPAN RUGBY TVより) このトゥイッケナム。実はスタジアムツアーがある。イングランドのラグビー協会にあたるRFU(ラグビー・フットボール・ユニオン)所属ガイドのもと、ドレッシングルームやピッチへの動線、大統領などが使用するVIPルームなど内部に立ち入って見学することができるのだ。オンラインでチケットを購入、実際に参加してみた。 中でも印象に残ったのは2つ。まず、スタジアムの正面玄関になる「The Rose and Poppy Gate(薔薇とポピーの門)」。金属製の門には、イングランド代表のシンボルでもある薔薇とポピーが彫られている。ポピーはヒナゲシ、英国では追悼を意味する。第一次世界大戦の最中、イングランド代表だった選手は徴兵を余儀なくされた。白に薔薇のジャージーは、ミリタリーカラーの軍服に変わった。 戦争で亡くなった世界中のラグビー選手を悼むために、2016年4月に設立。以降、トゥイッケナムで試合をするすべてのチームは、このゲートを通ってスタジアム入りするようになっている。 そして、イングランド代表が使用するホームのドレッシングルーム。選手がテーピングを巻くフィジオスペースの椅子は3つ、シャワールームの浴槽は4つもある。至る所に”Teamwork, Respect, Enjoyment, Discipline, Sportsmanship”の文字。プレーヤールームからコーチルームへの通路には、歴代の男女キャップ保持者全員の名前と、各々のファーストキャップの日がボードに刻まれている。それぞれのロッカーには、同じ場所に座っていた先人たちの名前も書かれている。 ホームのドレッシングルームには、古びた木製のベンチが2脚置いてある。一見、場違いなこのベンチ。実は1936年からトゥイッケナムで使われているもので、表面には下記のような刻印がなされている。 “You are in good company as many an England legend has sat here before you., ready to step out onto the hallowed turf and wear the Rose with pride. You are part of that history now. Be proud.” 「あなたは、これよりも前にここに座り、活躍したイングランドのレジェンドと同等です。神聖な芝生に足を踏み入れ、誇りと共に薔薇のジャージを着る準備ができている。あなたはすでに歴史の一部です。誇りを持って」 このドレッシングルームに入る全ての選手、スタッフが歴史を紡いでいる。膨大な時間を経て積み重ねられてきた伝統は、揺るがない原点に、そして強さになる。 ツアーの最後には、入場口を通ってピッチサイドまで立ち入ることができる。選手目線でトゥイッケナムを体感できる、またとない機会。ロンドンに滞在した際は、来訪することを勧めたい。 【トゥイッケナム・スタジアム・ツアー】 大人 :27.95£ 60歳以上・学生 :22.95£ 子供 :17.5£ ※スタジアム内、イングランドオフィシャルチームストアに集合後、RFUガイドの引率でツアー開始 ※ラグビーミュージアムツアーのみの場合は、上記より約半額に 公式サイトから予約可能 【筆者プロフィール】 中矢健太(なかや・けんた) 1997年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。ラグビーは8歳からはじめた。在阪テレビ局での勤務を経て、現在は履正社国際医療スポーツ専門学校・外国語学科に通いながら、執筆活動と上智大学ラグビー部コーチを務める。一人旅が趣味で、最近は野村訓市のラジオ『TRAVELLING WITHOUT MOVING』(J-WAVE)を聴きながら、次の旅先を考え中。