【欧州CL分析コラム】冴えわたったアルテタ采配。アーセナルが一度失った流れを取り戻した方法とは
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝1st レグ、アーセナル対バイエルン・ミュンヘンが現地時間9日に行われ、2-2の引き分けに終わっている。前半途中に1-2と試合をひっくり返されたアーセナルだったが、後半に何とか追いついてみせた。アルテタ監督はどのようにして試合の流れを取り戻したのだろうか。(文:安洋一郎) 【トーナメント表】UEFAチャンピオンズリーグ23/24
●準々決勝屈指の好カードは2-2のドロー 2023/24シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝にて、プレミアリーグで優勝争いを演じているアーセナルと、ブンデスリーガで首位レバークーゼンに勝ち点16を離されて連覇の記録が途絶えることが決定的となっているバイエルン・ミュンヘンが顔を合わせた。 リーグ戦での結果が明暗分かれていることや直近数試合の調子を踏まえるとホームチームが優位だと思われたが、1stレグの結果は2-2の引き分けに。試合全体を見てもドローが妥当の接戦だった。 最初に試合の主導権を握ったのはアーセナル。12分に復調気味のブカヨ・サカの鮮やかな一撃で先制に成功した。しかし、CLという大舞台に慣れていない影響もあったのか、攻め急ぐ場面が目立つなど焦りも見られ、ミス絡みで18分と32分に連続失点。試合のコントロールを完全に失ってしまった。 経験値でアーセナルを上回るバイエルンに1-2のリードを許して前半を折り返す展開となった中で、ミケル・アルテタ監督率いるチームはどのようにして再び流れを自分たちに引き寄せたのだろうか。 ●アルテタ監督が加えた最初の修正 アルテタ監督は後半開始と同時に左SBのヤクブ・キヴィオルに代えてオレクサンドル・ジンチェンコを投入した。 この交代の即効性は抜群だった。前半のキヴィオルのボールタッチ数は最終ラインの選手でダントツ少ない27。後半に同じポジションでプレーしていたジンチェンコが52タッチ記録したことを踏まえると、前半と後半で左SBの役割が変わったことがわかるだろう。 前半の問題点は保持時にキヴィオルがあまりに機能していなかったことだ。バイエルンがアーセナルの強みである両WGにダブルチームで対応する中で、初めからポーランド代表を放置。本職がCBであるキヴィオルは積極的にビルドアップに関わるタイプでもない上に高い位置での攻撃参加も得意としておらず、彼へのケアはあまり重要ではなかった。 キヴィオルがビルドアップに関わらない影響は他の選手の立ち位置にも影響を与えていた。左のインサイドハーフで先発出場していたデクラン・ライスも低い位置でプレーする機会が多く、そのためアーセナルの左サイドの攻撃はガブリエウ・マルティネッリの突破力頼みという状況に。ここにダブルチームを当ててくるバイエルンの守備との相性は最悪だった。 ほぼ機能していなかった左サイドからの攻撃に変化をつけるべく投入されたのがジンチェンコだった。彼自身のパフォーマンスそのものは決して良かったとは言えないが、前半にライスがプレーしていた位置に入ってビルドアップに関与してくれるだけで大幅に左サイドの機能性が改善された。 彼が内側に絞ることで、バイエルンの右WGもそこが気になってマルティネッリとのダブルチームが緩くなり、後半のアーセナルはブラジル代表FWと右SBのヨシュア・キミッヒとのマッチアップで優位に立つことができるようになった。 ●完全に流れを取り戻した仕上げの交代策 ジンチェンコの投入で徐々に自分たちに流れを引き寄せたアルテタ監督は、66分にジョルジーニョとマルティネッリに代わってガブリエウ・ジェズスとレアンドロ・トロサールの両選手を投入した。 結果的にこれが仕上げの交代策となった。 バイエルンは試合を通して5本のシュートブロックを記録するなど、最後の局面での集中力が高く、後半開始から2人を投入した時間帯までにアーセナルがマヌエル・ノイアーを脅かすシーンはほとんどなかった。 この状況を打破するべく、ボックス内で強さを発揮する2人のFWの投入は理にかなったものだった。特に抜群の存在感を放ったのがジェズスだ。この日の彼は3つ全てのドリブルを成功させるなど、ゾーンに入っていると感じさせるほどキレキレだった。 同点ゴールが決まった76分の場面でもジェズスのドリブルが火を噴いた。ボックス手前で前を向いたブラジル代表FWはスライディングで止めに来たバイエルンDFマタイス・デ・リフトを冷静にかわしながら危険なエリアに進入し、相手の視線を自らに引きつけてからマイナスの位置にいたトロサールへパス。最後はベルギー代表FWが落ち着いてゴールへと流し込んだ。 ボールを失わないジェズスのキープ力とフリーでボックス内に進入してきたトロサールの嗅覚。そしてこの流れを演出したアルテタ監督が見事な手腕を発揮した。試合後の記者会見でも「控えの選手たちが大きな影響を与えた」とサブの選手たちを讃えており、彼らが失った試合の流れを取り戻す上で重要な役割を果たした。 2008/09シーズン以来のベスト4進出に向けて意地の引き分けに持ち込んだアーセナル。敵地アリアンツ・アレーナに乗り込む勝負の準々決勝2ndレグは現地時間17日に行われる。アルテタ率いる「ヤング・ガナーズ」はさらなる高みへ進むことができるのだろうか。 (文:安洋一郎)
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