「老後資金2000万円不足」の衝撃が、今「4000万円」に拡大 シニア層の不安に「最新データでは1200万円で大丈夫!」/第一生命経済研究所の永濱利廣さん
「2000万円」「4000万円不足」と不安をあおるな
――なるほど。「老後資金2000万円問題」は、蜃気楼のような話だったわけですね。一方、最近登場した「老後資金4000万円」も盛んにあちこちのネットメディアで取りあげられていますね。 永濱利廣さん あるメディアの報道がきっかけのようです。「2000万円」と言い、「4000万円」と言い、数字が訴えるインパクトは大きいです。いたずらに消費者の不安をあおり、節約志向がさらに強まれば、日本経済はさらなる停滞に陥るかもしれません。私としては、これは正さなくていけないと思い、今回のリポートを発表しました。 ――具体的には「4000万円」という数字のどこに問題点がありますか。 永濱利廣さん 「4000万円説」は、金融庁ワーキンググループが出した「2000万円」の試算に、年プラス3.5%で物価上昇が続くと仮定して、2000万円に1.035を20回掛けて、20年後に3980万円(約4000万円)と計算しています。しかし、この計算には2つの修正が必要です。 1つ目は、金融庁の試算(2017年データ)では、高齢夫婦無職世帯の毎月の不足額が約5万4000円でしたが、最新の家計調査年報(2023年データ)では不足額が3万8000円に減少しています。 2つ目は、年プラス3.5%もの物価上昇率が20年も続くのは考えにくいことです。確かに2023年度の消費者物価指数(除く帰属家賃)はプラス3.5%上昇しましたが、現在は2%台後半に下がっています。プラス3.5%もの高インフレを、インフレ目標2%を掲げる日本銀行が長年放置し続けることはありえないでしょう。 そこで、現実的な数字として日本銀行が目標とする年プラス2.0%の物価上昇率を前提にすると、必要な金額は10年後に1668万円、20年後に2033万円と半分近く減少します。
69歳まで働くと、70歳以降も56年の生活ができる
――結局、「2000万円」に戻っちゃったじゃないですか(笑い)。 永濱利廣さん いや、もっと減るのですよ。高齢者は年齢が高くなるほどお金を使わなくなりますから、毎月の赤字分は世帯主の年齢によって変わってきます。そうしたことも加味して計算し直すと、老後必要資金は1144万円にまで縮小します。 仮に、シニアの貯蓄額のボリュームゾーンである中央値の1604万円を基準にすると、プラス2%のインフレ率を加味しても、なんと46年強の生活が可能になりますよ【図表4】。 ――すごいですね。その時、夫は111歳、妻は106歳ですか! ところで、これまでの試算は働いていない高齢夫婦を取りあげていますが、働いている世帯だと老後資金にもっと余裕が出てきますね。 永濱利廣さん 日本の高齢者は、世界で稀にみるほどの高い労働参加率です。内閣府の調査(2023年)では60代前半で7割、60代後半で5割、70代以降で2割も働いています【図表3】。 そして、2023年のデータをもとに65歳以上の高齢勤労者世帯の収支をみると、月36万円の実支出に対して46万円の実収入になっており、月平均9万5000円の黒字です。仮に65歳から69歳まで働いたとすると、追加貯蓄額が570万円増える計算です。 69歳まで働くことを前提にすると、収支が不変であれば70歳以降も56年以上の生活維持が可能という試算が大事なポイントです。つまり、元気に働くことが老後資金を考えるうえで、何より大切であることがわかります。