篠原涼子が言葉で、首藤康之が身体で、ある女の狂気的な愛を表現
シュテファン・ツヴァイクの原作を、行定勲の翻案・演出、中嶋朋子の主演によって上演された『見知らぬ女の手紙』。08年の初演を皮切りに、13年、14年にも上演を重ねてきたが、この度キャストを一新し10年ぶりに再演されることが決定した。あるピアニストの男のもとに、長い長い手紙が届く。それは彼を長年愛し続けた、見知らぬ女からの手紙で……。演出を手がけるのは、今回も行定。そして女を篠原涼子が、男を首藤康之が演じる。思い入れの強い本作に、新たに行定はどう取り組むのか。行定と共に、スチール撮影を終えたばかりの篠原、首藤にも話を訊いた。 篠原涼子、首藤康之が出演する『見知らぬ女の手紙』 ――10年ぶり、4度目の上演です。行定さんがこれほど本作に惹かれる理由は? 行定 僕にとっても非常にいい出会いだったんですよね。僕は映画でラブストーリーを題材にすることが多いのですが、甘酸っぱいとか、スイートな、といったイメージがあるせいか、どこか軽視されやすい部分があると思うんです。でもこの作品はそれらとは真逆。人間の情念というか、根源的な感情みたいなものがあぶり出されていて。きっと誰かを好きになったことがある人なら、恋愛の痛み、傷みたいなものに触れてくるような感覚を味わうはず。敢えていうならばホラー的に捉えられもする。それにラブストーリーならではの美しい瞬間もこの作品にはあるから魅了されました。そういった意味でキャスティングは非常に重要なので、このおふたりがそろってくれたことは本当に心強いです。 ――おふたりは初めて行定さんの作品に参加されますが、中でも舞台作品にお声がかかっての心境は? 篠原 行定さんとご一緒出来るというのが嬉しく、すぐに「はい!」とお返事しました。ただ舞台に立つということをあまり経験していない分、不安ではあったのですが、やはり憧れが大きくて。しかも今回は行定さん、そして素晴らしいダンサーの首藤さんもいらっしゃるので、安心して臨めるかなと。きっと素晴らしい世界を見せていただけると思うので、今は楽しみの方が大きいです。 首藤 僕も嬉しかったです。行定さんの演出、しかも舞台ということで、余計に興味深くて。もちろん映像作品は度々拝見させていただいていましたが、今回はこういった作品でもありますし、なにか想像のつかない面白さというものを感じています。 ――見知らぬ女からピアニストの男へ、一方的な愛が手紙によって綴られる衝撃的な作品です。台本を読まれた印象は? 篠原 すごく一途な女性だと思いますし、言い方を変えれば狂気的とも思えるくらいの女性ですよね。だから先ほど行定さんもおっしゃったようにホラーみたいというか。ただそういったものに触れることによって、きっと観客の皆さんはソワソワして、食いついてこられるんじゃないかなと。それを自分がどう表現出来るのか、私自身楽しみです。 首藤 僕も最初に読んだ時は、怖っ!と思いました(笑)。きっとこの男も同じだと思うんですが、途中でやめず、最後まで読み切ったところに、ちょっと彼の面白さがあるのかなと。そしてそれぐらい魅力があるというか、彼女のひたむきさ、切実さに、興味が沸いていったのかもしれない。しかもそういう女性を篠原さんがやられるということで、すごくぴったり……と言われて嬉しいかどうかわからないですが(笑)。 行定・篠原 (笑)。 首藤 今日のスチール撮影でも、すごく奥行きのある女性像を篠原さんから感じて、改めて楽しみになりました。 ――首藤さんのステージングに関して、行定さんからはどんなオーダーが? 行定 基本的には「手紙を読んでいる男」というところからスタートしてもらえればいいかなと(笑)。でも手紙を読んでいる側、受け手である男が動き出すってところは、衝撃が観客に波動として伝わるような瞬間だと思うんです。そして狂気的である女が男と共存し、愛にまで昇華出来るのか。最後に、「あぁ、このふたりはそうだったんだ」と。どこかで信じたいというか、見る側が自分ごととして感じられたり、置き換えられるといいのかなと。それがどういう形になるのかはまだ僕も想像出来ていませんですが、そういったものが見えてくるといいなと思っています。 ――難易度の高い作品ではありますが、どう切り込んでいけたらと考えていますか? 篠原 もし自分自身のプランがあったとしても、やはり舞台って皆さんで作るものだと思いますし、そうすることで本当に美しいものになるのではないかと思います。だからまずは皆さんの想いを優先しつつ、ある意味で助けていただきながら、自分自身もちゃんと本領発揮出来るようにしたいなと思っています。 首藤 やはり篠原さんが読まれる、女が書いた手紙というものの言葉に自分が身を置いた時、自然となにを感じるか、だと思います。ただその自然が一番難しくもあるのですが……。とにかくふたり芝居ということでとても濃密なものにはなると思うので、その時間を自分自身楽しみつつ、お客様と一緒になにか考えられるような作品に出来たらいいなと思います。 取材・文:野上瑠美子 <公演情報> 紀伊國屋ホール開場60周年記念公演 『見知らぬ女の手紙』 公演期間:2024年12月25日(水)~12月28日(土) 会場:紀伊國屋ホール