【パキスタン代表監督奮闘記4】イスラム教の国で野球を教えるということ
インドネシアとの初戦で得点し、喜ぶパキスタン代表の選手。試合は7-1でパキスタンが勝利した
野球というスポーツは、世界的にそれほどポピュラーではない。世界の野球競技人口約3500万人に対し、世界一競技人口の多いサッカーは約2億5000万人と言われている。私はこれまで、野球文化が根付いている日本、アメリカ、そしてプエルトリコで選手として野球をし、2013年から指導者として中東のイラン、そして今回のパキスタンへと渡った。イラン、パキスタンの宗教はイスラム教。野球人気は皆無に等しい国で、イスラム教特有のルールの知識のない私にとっては、新しい世界への挑戦だった。
ホテルの食事が食べられない選手も
東京オリンピックに向けて、日本でも「ハラル」という言葉を聞く機会が増えてきた。しかし、アラビア語で「許可されたもの」を指す言葉の意味や、サラダであっても、豚肉などハラル以外の食材と同じまな板で調理された物は食べられないなどのルールは認知されていないと思う。アジア選手権の舞台・台湾に到着した初日、ホテルの食べ物を確認したが、ハラルへの配慮はなく、ホテルと交渉するところから始まった。何とか翌日からハラルフード準備してもらえたが、比較的「食に保守的」な西アジアの人々にとって、焼き方や煮方などの調理法が大きく異なる東アジアの料理を食べられない選手もいた。 私は監督としては、大半の国際大会はイスラム教以外の国々で行われることを伝え、「何としても今与えられたものを食べる以外の選択肢はない」と選手に話した。一方で、私たちに日本人とって馴染みの薄いイスラム教だが、さまざまな国際大会誘致を進める国としては、より積極的に宗教理解を示す必要がある。スポーツを通して宗教、国際理解を深めることは、政治的、経済的な場面でも意義のあることだと思う。
いよいよインドネシアとの初戦
アジア選手権初戦のインドネシア戦を迎えるまで、野球以外の準備の部分に時間を要した。実力的な不安はなかったが、選手自身も慣れない環境に適応するのに時間がかかっていたので、スポーツ特有の雰囲気、試合の「入り方」に不安を残したまま試合に臨むことになった。