オラクルが挑む「クラウドサービス流通の新たな仕組み」は奏功するか
クラウドサービスはこれまでそのサービスベンダーがユーザーに直接提供するという「流通の仕組み」だったが、ひょっとしたらそれがこれから多様化していくかもしれない。ハイパースケーラーの米Oracleが提供する「Oracle Alloy」と呼ぶサービスを見て、そう感じた。ただ、筆者はこの動きに、10年余り前に追いかけていた出来事が思い浮かんだ。当時を振り返りつつ、Oracleの新たなチャレンジが奏功するか、クラウドサービス流通の仕組みが多様化していくか、探りたい。 Oracle Alloyの動きで思い出した10年前の出来事 NTTデータとOracleが先頃、日本の企業・団体がデータ主権を確保できる「ソブリン」対応のクラウドサービスの強化に向けた協業を発表した。これを受け、NTTデータと日本オラクルが記者説明会を開いた(写真1)。 協業内容の骨子は、NTTデータがOracleのクラウドサービスを自社のデータセンターで運営し展開できるOracle Alloyを、NTTデータのデータセンター内に導入して同社のクラウドサービス「OpenCanvas」に拡張し、ソブリン要件への対応を強化する。Oracle Alloyの導入により、NTTデータの運用管理のもと、国内でデータを保持しつつ、生成AI機能を含む150以上の「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)サービスを順次提供する計画だ。 発表会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、筆者が最も注目したのは、日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏が説明したOCIにおける3つの展開・運用モデルの話だ。図1に示すように、「Public Cloud」「Dedicated Region」、そしてOracle Alloyで、「これらの中身はサイズ以外全く同じ」(三澤氏)とのことだ。 異なるのは、設置、設計、運用の形態だ。Oracle Alloyに注目すると、設置はパートナーのデータセンター、設計はOracleとパートナーによるカスタマイズ、運用はパートナーが行う形だ。ここで言うパートナーは、日本では今回協業を発表したNTTデータと、既に同様の協業を進めている野村総合研究所(NRI)、富士通の3社が当てはまる。つまり、Oracle Alloyはパートナーが主体のビジネスで、OracleはOCIをインフラとして提供する形だ。これは、Oracleにとっては自らユーザーにサービスを直接提供しない「クラウドサービス流通の新たな仕組み」となる。さらに言えば、ハイパースケーラーの中でもこうした仕組みは、これまでさまざまな模索がなされてきたが、うまく行った先例はない。 ただ、筆者はOracleのこの取り組みを見て、10年余り前に追いかけていた出来事が思い浮かんだ。それは、米Microsoftが当時のクラウドサービス「Windows Azure」のグローバルなパートナー戦略として当初進めていた協業形態のことだ。ちなみにWindows Azureは現在の「Microsoft Azure」である。以下、「Azure」と表現する。 その協業形態とは、MicrosoftがAzureで富士通、HP、Dellと戦略的提携を結び、同サービスを運用できるシステム基盤を開発するとともに、3社それぞれのデータセンターからそのシステムを活用したAzureサービスを提供できるようにしようというものだ。 Microsoftにすれば、Azureの運営そのものを委託する格好で、3社のグローバルなビジネス展開力を借りて、同サービスを一気に普及させたいという思惑があったようだ。3社の中でも、MicrosoftはHPやDellに先行して、富士通との協業サービス展開を2011年6月に発表。同年8月より富士通の国内データセンターから提供されてきた“富士通版Azure”には当時、多くの顧客企業が名を連ねた。 ところが、Microsoftは2013年後半、この協業形態を転換。運営委託の協業形態を取りやめ、Azureは全て自前のデータセンターで運営する形にした。結局、HPとDellとの協業は何も進まないまま消滅したが、富士通が既に提供しているサービスについても、Microsoftが日本国内に自前のデータセンターを設けたことで、運営委託の形ではなくなった。