山の「厄介者」が漁業の町を救う? 磯焼け進み減る資源…放置林の竹で海の環境を改善、新たな特産づくりに挑む 阿久根
漁業の町として知られる鹿児島県阿久根市で近年、海藻がなくなる磯焼けが進み、特産のウニをはじめとする漁業資源の減少に悩まされている。そんな環境を改善しようと、従来は廃棄処分するしかなかった“厄介者”を活用する動きが広がってきた。海を守る助っ人となるか注目を集めている。 【写真】竹の枝に産み付けられたイカの卵(阿久根市環境水産課提供)
5月初旬、阿久根新港周辺の海に、木の枝や竹の束が次々と沈められた。海藻の代わりにイカの産卵場所となる「イカシバ」だ。 古くから漁に使われてきたが、投入した北さつま漁協青壮年部や市の目的は、産卵環境を整えて漁業資源を増やすこと。2008年から毎年、ウニ漁の繁忙期を終えたこの時期に取り組む。 これまでの間伐材や雑木の枝といった材料に加え、今回初めて市内の放置竹林で伐採したコサンダケを使った。投入してすぐにイカが集まり、8日後には竹の枝葉にたくさんの卵が確認された。産卵期が終わる7月下旬に引き揚げるまで、代わる代わるイカが卵が産み付けたという。 漁協などによると、竹のイカシバは卵が付くのは早いが葉が落ちるのも早いため、使用できる期間は短い。一方、木の枝は耐久性に優れるものの、イカが寄りつくのに時間がかかる。両者を混在させたことで、例年より効率よく産卵場所を提供できたとみられる。 ■市内で調達
放置竹林の竹でイカシバを作る案は、市の会合での林業関係者らの発言が発端だった。市内には所有者が高齢になって手入れができず、荒れたままの山や農地が増えているといい、「竹を伐採して販売する仕組みができないか」と市農政林務課の所崎慎也林務係長(44)は思案している。 現在はイカシバの材料を市外で調達してくる漁師もいる。所崎係長は「市内で買うことができれば、林業の収入増につながり、イカが増えると地元の新たな名物になるのでは」と思い描く。肉食のイカは小魚を食べることから、「海藻を食べ尽くす魚を捕食してくれたら」と期待する声もある。 ただ、同漁協の大戸徹管理部長(60)は来年度以降の竹の活用について、「検討したい」と慎重だ。一番の懸念は作業量が増えることだという。これまでは形のいい雑木の枝をそのまま使ってきたが、細いコサンダケは長さをそろえて束ね、乾燥を防ぐため水につけるなど、人手も手間もかかった。「すぐに使える形で提供してもらえるならありがたいのだが」