電気自動車の話で出てくる「カーボンニュートラル」ってそもそもなに? 世界的に急いで達成しようとしている理由とは
カーボンニュートラルってそもそもなに?
カーボンニュートラル(炭素中立)とは、排出される二酸化炭素(CO2)と、吸収されるCO2が、プラスマイナスゼロになることをいう。 【画像】世界初のEVキャリアカー「eキャンター」の画像を見る 人間が暮らすうえで排出されるCO2を、植物の光合成や、CO2を地中に埋めるなどの技術によって、相殺することにより、気候変動の要因とされるCO2の大気中の増加を抑えるのが目的だ。 気候変動については、地軸の変化によるとか、氷河期の周期によるなど、CO2を含めた温室効果ガスの影響を原因とする論への異論もある。しかし、CO2を含めメタンなど温室効果ガスの影響で温暖化が進み、これまでと異なる気候になることに対する警鐘は、国際的な専門家による科学的報告として、気候変動に関する政府間パネル(ICPP)で1988年から発せられている。そして対策がとられはじめたにもかかわらず、すでに大気の平均気温は1℃あがっている。1℃と聞くと、わずかな差と思うかもしれないが、それは1年を通じた平均での数字であり、実際の振れ幅はもっと大きい。 温度上昇によりつい先日も、沖縄と奄美で季節外れの豪雨があり、線状降水帯が発生して与論島では過去46年で最大の雨量となった。また9月には、能登半島に豪雨があり、正月の地震被害に加えての災害となった。異常気象による災害と被害は、全国のみならず、世界で可能性が広がっている。背景にあるのは、海水温度の上昇と、上空の気流の流れが変わり、季節を問わず気象の異変が起こりはじめているからだ。
クルマだけでは解決できない
2020年に、当時の菅義偉総理大臣が国内の温暖化ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする方針を示した。これによってクルマの電動化、ことに電気自動車(EV)の導入を急ぐ機運が起こった。2035年までにエンジン車の販売を禁止する方向で、日本政府は動いた。 CO2の排出と吸収をプラスマイナスゼロにすることは、容易でない。そこで、排出権取引という手法が編み出された。国や企業間で、温室効果ガスの排出量を定め、それを上まわる効果を上げたところは、下まわったところに権利を売ることができるという、一種の商取引だ。しかし、これでは各国、各企業それぞれ個別でのCO2排出削減が、不十分であるのは間違いない。 そうした遅れが、さらに気候変動を悪化させかねない。 クルマでいえば、今日にでも全車をEVにしなければ間に合わないほど、気候変動は深刻な状態にあると考えていい。 一方で、EVで使うリチウムイオンバッテリーの製造でCO2の排出が多いといわれ、懸念する声がある。しかし、要は新車の話だけではない。そのクルマがこの先10年以上存続することに問題がある。各国とも発電の脱二酸化炭素化を前進させており、日本でさえ、2030年には火力発電を半分ほどに減らす構えだ。10年後に電源構成が脱二酸化炭素へ向かっても、なお燃料を燃やして走るクルマがなくならないことに課題が残る。 なぜなら、たとえエンジン車の燃費が2割よくなろうと、ハイブリッド車(HV)に切り替わり燃費が半減しようと、2000年に比べ2023年の世界の自動車保有台数は2倍近くに増えており、排出ガスの総量は2倍以上だ。よって燃費改善の効果が相殺されてしまう。 気候変動への対応は、誰もが被害者になる可能性があると同時に、自分自身が加害者にもなってしまう問題だ。 自ら率先して対応しながら、国民のそうした行動や思考が、国を動かす後押しとなって電力の脱二酸化炭素をさらに急がなければ、たちまち住めない惑星となってしまう危険をはらんでいる。
御堀直嗣