入店待ちの客でごった返すスシローの新店舗＝9月27日、中国・北京

　中国の首都北京で回転ずしチェーンが火花を散らしている。内陸部の北京は日系回転ずしの「空白地帯」とも言われたが、今年に入って大手の「はま寿司」と「スシロー」が相次いで北京1号店をオープンして以降、続々と新店舗を開店。長引く不景気と東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に絡む日本産水産物の全面禁輸にもかかわらず、コストパフォーマンス（費用対効果）の良さが受け、行列ができている。一方、中華系も独自の進化で中国人の胃袋をつかみ、熾烈（しれつ）な競争を繰り広げている。　（北京・伊藤完司） 【写真多数】中国で提供されている“すし”や“すき焼き”

【日系】コスパ抜群　鍋物も人気

　9月27日昼、北京中心部から東に約20キロ離れた住宅地にスシローの北京2号店「長楹天街店」がオープンし、学生や中年の中国人を中心に満席となった。 　すしの価格は1皿10元（約210円）、15元、20元、28元の4種類。マグロなど定番のネタは1皿10元で提供する。席の脇に設置された大型タッチパネルにすしが流れる様子を映し、画像に触れて注文できるシステム「デジロー」を導入。日本では珍しい8人向けの個室（席料50元）も2部屋あり、こちらは従業員が配膳するという。 　友人と来た中国人の女子大学生（21）は「和食も刺し身も大好き。『おまかせコース』があるすし店にも行ったことがあるけど、日系の回転ずしはネタも鮮度も抜群でコスパがいい」と顔をほころばせた。 　実際に食べてみると、マグロは厚切りでうまみが濃い。シャリもほどよい柔らかさで、日本ですしを味わっているような気分になる。アカエビは大ぶりで甘く、満足感がある。 　周囲は新興住宅地で比較的若い家族が多い地区。現地法人「北京スシロー」の松田一成総経理は「家族連れのお客さまに喜ばれる店にしたい。北京でも日頃からすしを食べる人が増えるとうれしい」と話す。 　中国の沿海部は昔から海産物をよく食べる一方、北京など内陸部は海鮮料理になじみが薄い。日系各社は海に近い沿岸地域に狙いを定め、はま寿司は2014年に上海、スシローは21年に広東省広州に中国本土の1号店をそれぞれオープン。各地で店舗を増やし、ようやく首都にたどり着いた形だ。 　今年1月、はま寿司が在中国日本大使館や日本企業が立ち並ぶ亮馬橋地区に北京1号店を出した際は、数カ月にわたって行列ができた。スシローが8月に「北京の渋谷」と呼ばれる西単地区に1号店を開店した日は待ち時間が10時間を超え、話題を呼んだ。 　8月に北京中心部に開店したはま寿司の北京2号店を訪れた時、不思議だったのは多くの中国人がすき焼きやチーズキムチ鍋（ともに30元）といった鍋物を食べていたこと。すき焼きを食べてみたが、1人用の小鍋に薄切りの牛肉と白菜などの野菜がたっぷりと入り、あっさりとした味付けだった。スシローでもミニサイズの豚骨ラーメンが人気だという。 　中国では伝統的に体を温める食べ物、飲み物が良いとされ、夏でもさゆを飲む人は多い。中国人の友人は「冷たいすしだけでなく、おなかが温まる汁物、鍋物も食べたいというのは中国人にとって自然な感覚だ」と解説してくれた。 　昨年6月、上海に中国初出店したくら寿司は「約100兆円の外食市場を抱える中国大陸で100店舗を目指す」と打ち上げた。中国で約70店舗を展開するはま寿司や、40店舗超のスシローも積極的に出店する方針だ。