なぜ今、米国がロシア「本丸」企業に制裁したのか ルーブル安の行方、戦時経済のアキレス腱はどこに
「ロシアの財政を支えるのは、企業が石油・ガス売却から得る利益から徴収する鉱物資源採掘税だが、ルーブル安が進めば税収が上がる仕組みとなっている。もちろんインフレなど負の面もあるが、資源産業など輸出業が恩恵を受けることに加え、ロシアの戦時経済にプラスとなる側面があることを見逃してはいけない」 「ロシア政府の想定為替レートは2025年以降、2027年まで1ドル=90ルーブル後半から100ルーブル前半まで、徐々に切り上がっていくとしている。インフレ率に近いぐらいの割合で、じりじりと進んでいくルーブル安は容認するのではないか」 ―インフレで国民の反発は起きないのか。 「現在のインフレ率は8%台の高水準で、中央銀行が目標とする4%の水準から大きくかけ離れている。一方で、戦争に伴う兵士への報酬、人手不足などにより、国民の収入はインフレ率を上回って伸びており、実質所得はプラスだ。日本とは状況が違う」 ▽あつれき
―通貨防衛とインフレ抑制を最重要と考える中央銀行は政策金利を21%(2024年12月23日現在)と高い水準に設定している。高金利に反発する政財界とのあつれきはないのか。 「ナビウリナ中銀総裁はルーブル防衛のためには、さらなる金利引き上げもいとわない厳格な姿勢を示している。金利引き下げを求める経済界からのバッシングは激しく、プーチン大統領がナビウリナ氏の去就を含めどう決断するのか、難しい判断になるだろう」 ▽いたちごっこ ―結局、制裁の効果は限定的ということか。 「ロシアに対し、ある制裁を科せばその抜け道を見つけるなど、いたちごっこの様相となっている。そもそもロシアのように資源が豊富な大国を、制裁だけで即座に弱体化させることはできない」 「むしろ、制裁によりロシアは必要なテクノロジーを輸入できず、エネルギーや軍需など基幹産業に徐々に影響が出てくる。すぐに戦争を止められない歯がゆい面があるが、制裁を継続することが結局、プーチン政権を行き詰まらせることにつながる」
― * ― * ― はっとり・みちたか 1964年静岡県生まれ。北海道大大学院文学研究科博士後期課程修了。ロシアNIS経済研究所長を経て、2022年10月から現職。