谷川俊太郎さん直筆の書は昆布が縁…交流の福井県敦賀市の男性「言葉に命を込めていた」
11月13日に死去した詩人の谷川俊太郎さん直筆の書が、福井県敦賀市の昆布加工販売の奥井海生堂に残されている。谷川さんは昆布を縁に2度敦賀を訪れており、「生きている海をよろこぶ」など親しみやすい言葉で豊かな自然に感謝する書をしたためた。同社社長の奥井隆さんは「やさしい言葉なんだけど、奥深いパワーを感じる。一つの言葉に命を込めていた」と語る。 谷川俊太郎さんの直筆書「生きている海をよろこぶ」 東京の高級スーパーで谷川さんが同社の昆布を購入していた縁があって知り合った。日本料理が好きで、昆布を卸す京都の料亭菊乃井を案内したこともあったという。敦賀には1999年と2000年の2回訪れ、昆布を熟成する昆布蔵や昆布細工をする作業場を見学した。 「生きている海をよろこぶ」という言葉は大きな越前和紙にしたためた。「海」と「生」という社名の入った言葉に「最初は上手に考えてもらった」と感じていただけだったという。 しかし2、3年たってふと見返したときに「生きている海じゃないと昆布は育たないし、私たちも商売はできない。創業154年になるが、改めてこの商売の本質を教えてもらったような衝撃があった」という。 ほかにも谷川さんは「こんぶをはこぶ ちちのちからこぶ」「こんぶにむすぶ いにしえのえにし」「うなばらのめぐみ こんぶたつとぶ」などの言葉をつづった「こんぶうた」も作っている。 谷川さんが奥井さんの元を訪れた際は、気比の松原や三方五湖、越前海岸を案内した。ともに京都に行ったときには、神社で巨大な木に手を当てて瞑想(めいそう)している姿が印象的だったという。「物静かな人で自然への畏敬の念を持っていた。したためる言葉は、ちょっとした言葉、何げない言葉なんだけど、後で読むとふつふつとした力を感じ、考えさせられる」と振り返った。
福井新聞社