ロシア・北朝鮮「軍事同盟」の破壊力、孤立するプーチンと金正恩が共闘…核開発が加速し拉致問題解決はさらに遠のく
■ 国連安保理の制裁決議に違反 ロ朝の新たな条約は、地域の安全保障に影響を与えることは必至です。日米韓の政府高官は、ロ朝の軍事協力が国連安保理決議に違反し北東アジアと欧州の安定を脅かすとして、強く非難する共同声明を出しました。 国連安保理の北朝鮮制裁決議は国連の加盟国に対し、あらゆる兵器や軍事技術を北朝鮮に供給・移転したり、逆に北朝鮮から調達したりすることを禁じています。相互の軍事協力をうたったロ朝新条約は、個別的・集団的自衛権を根拠にしているとはいえ、この制裁決議に違反することは明白です。 ロシアは国連安保理の常任理事国でありながら、自らも参画してきた北朝鮮への制裁を無力化する方向へかじを切りました。ロシアはすでに北朝鮮への制裁実施を監視する国連機関の活動延長を拒否権によって阻止するなど、北朝鮮寄りの動きを見せています。 今後、仮に北朝鮮が核実験を実施しても、ロシアは拒否権を行使して国連安保理のさらなる制裁決議を阻止することも考えられます。ロシアの後ろ盾を得た北朝鮮は、核・ミサイル開発を加速させる可能性があり、朝鮮半島の非核化や核兵器不拡散への歩みは後退が予想されます。 日米韓の3カ国は、首脳会談の定例化を決め、軍事的な共同訓練を重ねるなど安全保障面での連携を強化しています。また、日韓両国はNATO首脳会議にも出席するようになっており、ロシア・北朝鮮ともに警戒を強めています。結局、東アジアと欧州の両方面で緊張が高まる懸念が拭えないのです。
■ 拉致問題の解決もさらに見通せず 岸田文雄首相は、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向けて首脳間協議を呼びかけていますが、実現の見通しは立っていません。北方領土返還に向けた日ロ平和条約交渉もウクライナ侵攻以降ストップしたままです。ロ朝の接近でこれらの懸案解決はさらに見通せなくなりました。 今後の東アジア情勢でカギを握るのは中国でしょう。中国は米国に対抗する点ではロ朝と立場が近いのですが、ウクライナ侵攻を続けるロシアや、安保理決議に反して核・ミサイル開発を進める北朝鮮とは一定の距離を置いています。 ロ朝の新条約締結に関して中国は今のところ静観しています。北東アジアの安全保障の不安定化は中国にとっても望ましくありません。中国がロ朝に接近すれば、「中ロ朝」と「日米韓」という対立構図が決定的になりかねないだけに、「日米韓」と「ロ朝」の間で中国をめぐる外交的な綱引きが展開される可能性が高まっています。 西村 卓也(にしむら・たくや) フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
西村 卓也/フロントラインプレス