阪神が若手育成の“掛布バイブル”作成へ
阪神が若手育成に本気になった。今季の2軍の活動の様子を高知・安芸キャンプからシーズンを通じて、映像やデータに記録、球団の育成の理想形をマニュアルとして残す作業を始めることが明らかになった。 昨季“超変革”を掲げた金本監督と連携しながら、2軍キャンプから新人王を獲得した高山俊外野手(23)を調整させ、育成から原口文仁捕手(24)、シーズン途中からショートのレギュラーポジションに座った北條史也(22)を1軍に送り出すなどした掛布雅之2軍監督(61)の現役時代の実績に裏づけされた技術指導と、それをフォローしている2軍スタッフの指導スタイルを評価、形に残そうと考えたもので、言うならば、“掛布バイブル”の作成だ。 阪神にとって生え抜きの育成は大きなテーマ。 金本監督が、「鳥谷以来、生え抜きのレギュラー野手が出てきていない」と問題提起したほど、選手が出てこなかった。ドラフト戦略が悪いのか、2軍の育成体制が悪いのか、鶏が先か卵が先かのような議論がされてきたが、育成に手間取った理由のひとつに、2軍の監督、コーチが変わるたびに、指導法も変わるなど、その育成システムが一定せず、選手側も戸惑うという問題があった。そこにドラフトの失敗も手伝って、なかなか生え抜きの選手、特に野手が2軍から出てこなかった。 日ハムなど、若手育成に成功している球団は、ドラフト&育成システムが確立されていて、それがペナントレースの結果に直結している。新人選手の打席数のノルマなども細かく規定されているという。日ハム以外にも、ソフトバンク、ヤクルトなど球団としてのマニュアル作りに乗り出しているチームも少なくない。 阪神も、これまで強化指定選手制度を導入して、重点的に出場チャンスを与えたり、逆にまだ体力的に不安があったり、故障を抱えている若手を“球団預かり”として出場機会に制限を設け、“潰さない”ような配慮をしてきたが、阪神の2軍としての基本の打撃、守備、走塁、守備隊形、チーム打撃、投手の基本技術、投げ込みに関する理念や起用法など、指導スタイルの整備は行われていなかった。 かつて阪神では、野村克也氏が監督に就任した際、「野村の教え」という教則本を全員に配り、チームのバイブルとしたことがあったが、これまでチームの教えがマニュアル化されたことはなかった。 今季は、昨年まで1軍のチーフスコアラーだった分析の専門家の井沢氏がスタッフとなったこともあり、池之上統括、宮脇ディレクターが中心となって記録作業に手をつけて、試行錯誤を行いながら、投手育成から攻走守にわたるまで阪神としての普遍性を持った育成マニュアルを完成させたいという考えだ。中長期のビジョンが必要な育成に対して真剣に取り組もうとするフロントの姿勢は評価できるだろう。 1軍の戦術、戦略は、監督によって変わるものだが、2軍の戦い、育成のスタイルはフロント主導で、指導者が変わっても原則は変わらず一定であることが理想。ただし、その基本スタイルが間違っていては元も子もないので、しっかりと議論、検討する必要はあるのだろうが、“掛布バイブル”が、3年後、5年後の阪神を常勝軍団に変えるのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)