データ基盤でDXの本丸へ--テプコシステムズのアジャイル変革体験記(前編)
広がるアジャイル、新たに発生した課題も こうした取り組みにより2022年3月末時点の状況は、グループ各社からテプコシステムズへの相談案件が265件に上り、実施プロジェクトが107件、PoCが92件といった盛り上がりを見せた。アジャイルの小規模なプロダクト開発などは5件だが、これは3カ年計画などにおいて確実性の高い成果が期待され、本格的なプロジェクトとして開始したものなどだという。アイデアレベルの相談はこの実績以上の数字だったといい、tepsys labsの活動が東電グループのアジャイルへの変革を担った。 各種のプロジェクトでは、若手を中心にグループ各社のビジネス側やテプコシステムズの技術側のメンバーが多数参加した。 「新しいことや技術をやりたいというマインドを持った人など若手が多く参加している。アジャイルの取り組みとなることから、現場で活動している人材をプロダクトのオーナーにしなければプロジェクトを進めるのが難しく、システムと現場の人々が一緒にプロダクト作りをしていく状況だった」(望月氏) 「東電側は、どちらかいえば、従来システム関係の業務を担当してこなかった人材がプロジェクトに携わるケースが多かった。やはり、信念を持っている人間でなければ、こうした取り組みを推進するのは難しい」(沼田氏) 新たな取り組みを開始したいという要請の拡大に備え、東電ではアジャイルを本格化するための整備を開始するものの、今度は別の課題が表面化する。 沼田氏によると、電力企業としての中期計画に合わせ、システム計画策定・予算化のために、数年先まで案件状況を抽出・整理するが、2023年度の計画を検討するタイミングで、具体化の対象となるアジャイル案件がゼロという事態が生じた。 もちろん、その段階にまでは到達していない案件は多数あったが、「PoCは誰かが『やりたい』、もしくは経営などからの指示に基づき期中スタートすることが多く、年度始めの段階では具体像が見えにくい。案件が全く無いということではなかったが、アジャイルを採用するにしても、当時は会社のルールに従ってものを作るという状態にまだまだ到達できていなかった」と明かす。 望月氏は、テプコシステムズ側もジレンマを抱えていたという。「ビジネス側から『この案件は、そちら(テプコシステムズ側)では手に負えないですよね』といった声が来ることもあった。システム側としては、案件が具体化しないと、先行して人を充てることが難しい。年度の前半に相談が来て、半ばから徐々に具体化し、年度の後半には手が回らなくなる大変な状況が続いた。しかし、計画的に人が動かさないといけない。しっかりと案件に取り組みたいが、計画的に人をアサインできないジレンマがあった」 沼田氏は、「その意味では、東電側でITの活用を考える人が増え、テプコシステムズとしても、従来の基幹システム分野とは違う部門の人材と一緒にITやデジタルの活用を考える機会が拡大したといえる。東電側の期待が膨らむ一方、テプコシステムズ側は1つの部署で対応しており、そこにデジタルの話が全て行く状況になってしまっていた」と話す。 テプコシステムズでは、2018年に東電からシステム企画部門がテプコシステムズに移管され、この中にあったデジタライゼーション推進部門と、当時望月氏が所属したICT推進のソリューション部門が、DXやアジャイルの取り組みを担当すべく統合した。その後さらにアジャイルの推進を強化すべく「アジャイルセンター」を発足(望月氏が所長)。2024年度には、さらにアジャイルセンターとソリューションの外販部門を統合した現在の「ビジネスアジャイルセンター」に拡大しており、望月氏がジレンマを感じていたリソース不足を解消すべく、組織体制の拡張も進む。 「今では新規分野のアジャイルやデジタルに取り組む人員の割合も高まっており、グループ各社の基幹システムを支える従来部門でもDX案件を扱うようになってきた。DXの視点で言えば、アジャイルの裾野が着実に広がってきている」(沼田氏) 続く後編では、「TEPCO Data Hub」など大規模案件への対応における背景などを紹介する。