いま押さえておくべき「ハラスメント」に関する法律とその対処方法
正しく知っておきたい「パワハラ」の定義
――ここからは、特に職場で発生しやすいパワハラについてうかがいたいと思います。どのような言動がパワハラに該当するのでしょうか。 職務上の注意や指導であっても、行き過ぎるとパワハラになります。どこまでが適切で、どこからがパワハラなのか、他のハラスメントにはない難しさがあります。 そこで、厚生労働省がパワハラの6類型を具体的に示しています。(1)暴行などの「身体的な攻撃」、(2)暴言などの「精神的な攻撃」、(3)無視するといった「人間関係からの切り離し」、(4)大きなノルマを課すような「過大な要求」、(5)逆に十分な仕事を与えない「過小な要求」、(6)私的なことに過度に立ち入る「個の侵害」。いずれも相手の人格を否定、攻撃することが根底にある点は共通しています。注意したいのは(4)(5)で、仕事に関する指示でも、内容によってはハラスメントになることが示されています。 ――内容を見ると、いわゆる「いじめ」に近い印象があります。パワハラといじめの違いとは何なのでしょうか。 本質は同じと言えます。力関係で強い方が何らかの攻撃を行い、職場環境や生活環境を害する点は変わりません。その根底には相手に対する人格否定があります。パワハラの定義ができたのはここ数年ですが、それまでは広く職場のいじめ、嫌がらせと言われる場合もありました。 ――法律上のパワハラの定義についても、お教えいただけますか。 法律上の定義は2019年に改正された労働施策総合推進法にあります。この法律は、パワハラに関連することから一般に「パワハラ防止法」と呼ばれることもあるようです。 パワハラ防止法では、(1)職場での優越的な関係を背景とし、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超え、(3)労働者の就業環境が害される、という3要素をすべて満たす場合、その言動がパワハラであると定めています。多くの企業もこの規定をベースにして、パワハラ防止措置を講じています。 ――3要素をすべて満たさないとパワハラには該当しない、ということでしょうか。 その通りです。ただし注意してほしいのは、仮に二つの要素しか満たさないようなトラブルでも、企業はしっかりと対処しなくてはならない、ということです。会社が対応を怠れば、従業員に対する安全配慮義務に違反したとして、法的責任を問われる可能性があります。ところが、このことは必ずしも十分に認識されていません。最悪なケースは、相談してきた従業員に「パワハラと認定できないので会社としては何もできない」などと言ってしまうこと。それを聞いた従業員には絶望しかありません。「3要素すべてを満たさなくても職場のトラブルに企業は対処すべき」と、声を大にして言いたいですね。 ――セクハラなどでは「被害者が嫌だと感じたらセクハラ」とも聞きます。パワハラも、被害者の受け止め方が基準になるのでしょうか。 「被害者が嫌と感じればセクハラ」とはよく言われますが、実はそれは正確ではありません。セクハラもパワハラも、まずは「平均的な労働者の感じ方」を基準にして考えます。その次に、被害者個人の受け止め方を考慮するのが一般的です。 ただ、セクハラの場合、そもそも職場は仕事をするところで、性的な言動自体がないのが前提なので、そういった言動があった時点で、多くの人がセクハラだと受け止めます。それが「被害者が嫌と感じればセクハラ」という考え方につながったともいえます。それに対して、パワハラは注意や指導との違いが曖昧なので、「本人が嫌だと感じたらすべてがパワハラ」では仕事になりません。常識的な感じ方に照らし合わせてどうかが出発点になるということです。 もう一つの注意点として、「悪意があったかどうか」は条件になりません。「パワハラをするつもりはなく、あくまでも指導だった」と言っても、パワハラ防止法の3要素を満たせばパワハラに該当します。