夜道で「ぶつかりおじさん」に遭遇、心身共にダメージを受けた。周りの人のやさしさが身に染みた
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第55回は「人のやさしさ」です。 * * * * * * * ◆正面から歩いて来た人にぶつかられた ある日、夜道を歩いていたら、急に身体にガンっと物凄い衝撃が走った。右胸に激痛が走り、うずくまる。あまりに一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかったが、前から歩いて来た人にぶつかられたのだ。 あれ、たまたまぶつかっただけ?でも、決して狭い道ではなく、人通りも少ない。しかも、物凄い衝撃だったので、ぶつかった相手にだって相当な衝撃があったはずだ。それなのに、立ち止まらずに去って行った。ということは、まさかわざとってこと……? よく考えれば、たまたまぶつかっただけとはとても思えなかった。歩いていただけでたまたまぶつかっただけなら、例えば肩がボーンと当たるというように、少し広い範囲が接触するはずだ。 しかし、私の場合、鎖骨の下あたりの、かなり局所的に、超ピンポイントで、しかも相当な力で突かれた。こんな言い方もどうかと思うが、それは一瞬で相手に最大のダメージを与えるプロの技だった。きっと常習犯なのだろう。
◆放っておかないでいてくれたことが嬉しかった これが、「ぶつかりおじさん」というものか。駅に出るとは聞いていたが、まさか道端で出会うなんて。ぶつかった衝撃でスマホは吹き飛んだが、幸い壊れておらず、胸は物凄い痛みだったが、我慢できる程度でなんとか動けたので、その日はそのまま帰った。 もともと腰痛で整形外科のリハビリに通っており、そこに行った際、スタッフさんとの世間話の流れで、「実は昨日、路上でぶつかられて~」と軽いテンションで言うと、スタッフさんは血相を変えて、「息を吸えますか」「腕で押してみてください」「こう動かすと痛いですか」といろいろとみてくれた。 「そこは骨が折れやすいところなので、レントゲンを撮ってください」と言われたが、結局2~3日様子をみることになった。その後もリハビリに行くたびに経過をみてくれた。実際骨折していて処置が遅れたら大変だし、整形外科なのだから、医療に携わるスタッフとして当たり前の対応をしただけなのだと思う。 それでも、自分は大したことがない、我慢するしかないと思っていることを、放っておかないでいてくれたことが、とてもありがたく、嬉しかった。