苦渋の5失点デビューから12年 日本人大リーガーの「旗手」に成長したダルビッシュ
19日(日本時間20日)に日米通算200勝を達成した米大リーグ、パドレスのダルビッシュ有投手(37)を日本ハム時代からたびたび取材してきた記者にとって、忘れらない光景がある。メジャー公式戦初登板となった2012年4月9日。当時レンジャーズに在籍していた右腕は、本拠地のテキサス州アーリントンで行われたマリナーズ戦に臨んだ。現地で取材して目の当たりにしたのは、緊張感と不安に満ちていたダルビッシュの表情だった。 「雰囲気というか、まだつかめていない。自分の中に入ってきていない部分がすごくある…」。初登板でメジャー初勝利を挙げながらも、投球内容は六回途中5失点。先発出場していたイチロー(当時マリナーズ)には3安打を喫し、強烈な洗礼を浴びた。自信が満ちあふれていた日本ハム時代の姿とは一転し、まるで敗戦投手のような硬い表情で話していた姿が、脳裏に焼き付いている。 辛酸をなめた大リーグでの公式戦初登板から11年。昨年行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の1次リーグと準々決勝で久々に取材したダルビッシュの姿に、驚きを隠せなかった。日本ハム時代はどこか近寄りがたい雰囲気を漂わせていたのとは対照的に、柔和な表情を浮かべながら、後輩の選手たちと接する姿が印象的だった。 日本代表でダルビッシュとともに投手陣を支えた今永昇太(現カブス)はWBCの開幕前、「(日本代表は)技術を教え合ったり、お互いを高め合ったりする関係性が築き上げられている。宮崎合宿から参加していただいたダルビッシュさんには本当に感謝しているし、本当にあの人がいなければ、大会前にこのような状況で投手陣が迎えられることはなかった」と語っていた。侍ジャパンの「精神的支柱」としてチームの先頭に立つダルビッシュの姿を見て、あの11年前の悔しさを出発点に歩んできた右腕のたゆまぬ努力を感じずにはいられなかった。 今永だけでなく、大谷翔平、山本由伸(いずれもドジャース)ら日本選手の活躍が目覚ましい今季の大リーグ。13年前の移籍会見で「メジャーより日本の野球が下に見られるのが嫌」と語っていたように、ダルビッシュにとってメジャーのマウンドは、日本人としての矜持を体現する場でもあった。幾多の試練と困難を乗り越え、10年以上にわたって大リーグの第一線で活躍し続けてきたダルビッシュこそ、日本人メジャーリーガーの先頭に立つ「旗手」であると確信している。(浅野英介)