なぜ人類だけが特異的な「協調性」を手に入れられたのか…決定的な出来事は「自然環境の変化」だった
協力のネットワークを広げる
そのような背景では、集団意図、つまり「我々意識」を育み、狩猟という複雑な能力を学び、協力して実践することが進化として有意義だった。狩猟への参加や獲物の分配などを取り仕切るための詳細な制度も同時に発展した。 こうして、協調性を有する生物になった人類は、自然と社会から協力作業の果実を収穫できたのである。いわゆるスケールメリット(規模がもたらす利益)が生じ、協力を通じて得られる利益は、協力のネットワークを広げることで大きくなっていった。経済学者が「規模に対する収穫逓増」と呼ぶこの現象では、私たちの行動に応じて成果が一定に増えるわけではなく、ときに爆発的に増加する。 たとえば、ゾウやシマウマを狩るには6人の狩人で構成されるグループが必要だと考えてみよう。この場合、5人で狩りに出るか6人で行くかの決断の違いで、成果の差はウサギが5匹か6匹かではなく、ウサギ5匹かあるいは“ゾウ1頭”かの違いに拡大する。 このような協調形態をモデル化した理論として「シカ狩り」が知られている。この思考ゲームには、2人のプレーヤー(AとB)と2つの選択肢(シカ狩りとウサギ狩り)が登場する。シカを狩るには、プレーヤーは協力しなければならない。 ウサギは1人で狩れる。そのため、プレーヤーは互いに行動を“合わせなければならない”。もしAがシカを、Bがウサギを追うのなら、Aは腹をすかせて手ぶらで家に帰ることになる一方で、Bはシカという大物を手に入れるチャンスを逃したことになる。両者ともにシカ狩りを選択した場合にのみ、最適な状況が実現する。 『人類の祖先は「殺しも略奪もいとわないギャング」…「敵対」や「暴力」は人類に特異的な「協調」と表裏一体だった』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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