“嫌われた球界の最長老”広岡達朗が辿り着いた哲学…「人はなぜ生まれてくるのか?」
広岡が語った“自然の法則”
広岡達朗は野球人でありながら、フィロソファー(哲学者)でもある。 面と向かってそう言えば、きっとこう怒鳴られるのだろう。 「そういうことじゃない。当たり前のことをやっているだけだ。人間は死ぬまで勉強なのだから」 野球の話をするにしても、表面的な事象だけではなくその根本から考察していく。そうしたほうが、少し時間がかかっても真理に行きつくからだ。 広岡と初めて電話で話をした際に言われた言葉がずっと頭にこびりついている。 『人はなぜ生まれてくるのか? 』 すぐには答えらない人がほとんどであろう。もちろん、自分も答えられなかった。 広岡はこう言った。 「自然に反しないように地球の進化と向上のために生まれてきている」 一度や二度聞いたところで理解するのは難しい。さらにこうも付け加えた。 「世の中は間違っていることばかり。でも“自然の法則”だけが、未来永劫正しいんだよ。どんなに科学が進歩しようとも、太陽が東から昇り西に沈むことを変えることはできない。雨にしたって、水蒸気が雲になってその中の水が一定以上の重さになって降ってくるもの。これが自然の法則。 近代化を推し進めて地球上の森林をすべて伐採したらどうなる? 人間界の法律のように明文化されたルールはないけれども、自然に逆らったら罰が当たる。だから、正しい理論が必要であり、その理論を信じてやるしかない」 広岡が“自然の法則”をベースに考えていることはわかった。正直、広岡が電話で“自然の法則”について話すたびに、あまりに高尚すぎて頭に入ってこなかった。しかし、何度も聞いているうちに自然と耳に入って来るようになる。これが“自然の法則”なのか、それとも広岡の為せる技なのか、いつも不思議な感覚に陥る。 後編記事『老害と呼ばれようと…92歳・広岡達朗が「巨人軍」を語り続ける“明快な理由”』ヘ続く。
松永 多佳倫(作家)