東日本大震災から13年 「大槌刺し子」が与えた生きる“喜び”と“希望” 新たなブランド「サシコギャルズ」の立ち上げも #知り続ける
はじめは避難所の一角で行われていた制作はその後、大槌町の中心部にある一軒家へと場所を移す。そこで開かれるようになったのが「刺し子会」。作り手である“刺し子さん”たちが集まって作業をしたり、お茶をしたりする場になった。参加する“刺し子さん”たちからは、このような声が聞かれたという。 「心が無心になることで、嫌なことを忘れることができたのが、すごく良くて。“刺し子会”で皆さんと交流することが、心の拠り所になっていたという声も今まで頂いている」 また、刺し子をすることは、こうした被災者の「心のケア」になっただけでなく、生活を再建するための「資金作り」にもなった。吉田さんは、ある“刺し子さん”から言われた言葉が今でも心に残っているそうだ。 「震災から約8年経ったころ、ご自宅を仮設住宅から新しい家に再建されたときに、『刺し子を通して貯めたお金で寝具を買ったんだよ』と伺った。『まいちゃんもいつか泊まりにきてね』と言われたときは、すごく嬉しかったというか、ジーンとした」
こうして活動を続け、多い時期には100人前後が活躍していたという。さまざまな企業とのコラボレーションも積極的に行い、良品計画とのコラボ商品はヨーロッパでも販売された。また2015年には、大槌町のふるさと納税の返礼品としても取り扱いが開始。 しかし、震災から時が経つにつれ、販売の場となっていた復興イベントは減り、復興支援として売り続けることは難しくなっていった。
そこで吉田さんたちは、刺し子の専門家を招き講習会を行うなどして技術を向上させ、刺し子そのものの魅力で買ってもらえることを目指す。そして、震災から10年が経った2021年には名称から「復興」の文字を取り、「大槌刺し子」として再出発した。 「“復興”を越えて未来を見たときに、刺し子が『ものを大切にする』という日本の昔ながらの人たちの心が育ててきた手芸だと思うので。手仕事の価値を伝えることで持続可能な社会に貢献したり、大槌という地方、色んな過疎化の問題を抱えている地方が元気になる。そして、伝統手芸も元気になることに貢献できたらと」