松重豊「見たらおなかがすく1時間50分」 監督・脚本・主演の「劇映画 孤独のグルメ」【インタビュー①】
俳優松重豊(61)が監督・脚本・主演を務めた「劇映画 孤独のグルメ」(上映時間1時間50分)が10日、公開される。「腹が…減った」「店を探そう」などのセリフでもおなじみの人気グルメドラマが満を持して映画化。自身が初めてメガホンも取った意欲作に「見たらおなかがすく1時間50分になった」と仕上がりに自信を見せ〝開店〟を心待ちにしている。(近藤正規) ◆松重豊、ちゃっかり…「美味い、いや上手い!」『写真』
◇40年間封印していた思い さまざまな映画やドラマに出演してきた名優だが、公開を間近に控えた心境は今までの作品とは「まったく違う」と断言する。「これまでは監督から撮影で『OK』と言われた瞬間に僕の仕事は終わっていた」と言い、今回は役者としてだけでなく監督として取材やイベントなどで語ることになり「わが子のことのように言葉も選んでしゃべらなきゃいけない。今までは適当にやっていたんだろうな」と苦笑い。 構想から始まり「この2年間くらいは映画のことしか考えていない日々が続いた。映画が出来上がったのは昨年2月ごろなので、公開日までどういう戦略でやっていくのか、PR担当の人たちと知恵を絞りながら模索してきた。本当に1月10日が待ち遠しいということにつきますね」。
当初は監督として、韓国のポン・ジュノ監督にオファー。「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でカンヌ国際映画祭や米アカデミー賞で受賞を重ねた世界的名匠で、松重は同監督が手がけた映画「TOKYO!〈シェイキング東京〉」(08年)に出演した縁があった。今回の映画ではドラマの世界観を踏襲しながらも、観客にはドラマと切り離して考えてもらいたかったとし「大なたを振るわないと映画にはならないと思っていたので、何か違うアプローチでこの作品をズタズタにしてくれる」として同監督に頼んだが、スケジュールが合わず断念。最終的に自身がメガホンを取ることを決意。 約40年前に映画監督に憧れ上京した松重。東京・下北沢の中華料理店「珉亭(みんてい)」でアルバイトを始めるが、偶然にも同じ日に働き始めたのが後にロックバンド「ザ・クロマニヨンズ」を結成する甲本ヒロト(61)だった。当時、甲本主演で8㍉映画を作ろうとするも、資金が調達できず頓挫。「自分のふがいなさで製作中止になってしまって、周りの人や特に甲本ヒロトに迷惑をかけたというのが自分の中で大きなトラウマだったので、映画監督をやりたいなんて二度と言っちゃいけないものだと完全に封印していた。本当に40年間、口にしたこともなかった」という。 しかし「ポン・ジュノさんに断られた日になぜだか自分で撮るかと口をついて出ちゃった。40年間言ってなかったことも忘れたくらいの勢いで言っちゃった。よくよく考えたら二度とやらないと言ってたなと」と〝監督・松重豊〟誕生を振り返る。「ヒロトに映画をやるとちゃんと言わなきゃいけない。だったら主題歌をお願いして40年の借りを何とか返すことができないか」と主題歌はザ・クロマニヨンズに依頼した。 ◇100点で世に出す覚悟 今後、再びメガホンを取る日は来るのかと問いかけると「それには今回の映画が成功しないと。一回途中で資金がショートして中断して、それにもかかわらずまたやると言って、これだけ多くの人を巻き込んだわりに興行成績が悪かったら完全に失敗なので監督をやる資格はないと思う。それは1月10日からの結果次第です」と背水の陣で臨む。「自分では非の打ちどころがないくらい完全に仕上げたつもりなんですよ。自分の中では完全に仕上がっている自信はある。年齢層を問わず小さいお子さんからご老人まで楽しんでいただける内容になっているはずなので、僕としては100%の自信をもって100点と思って世に出す覚悟ではいる」ときっぱり。 「孤独のグルメ」の魅力を聞くと「これだけ食べ物を主人公にしたドラマは今までもなかったし、日本人は誰もが食べ物が好き。食べ物に対する興味は尽きないし、それがドラマに落とし込まれている」とした上で、「物語がどうのというよりもうまそう、食べたい、腹減ったということだと思うので、この映画を見ておなかがすかない人はいないという1時間50分にしたかった。そういう意味で言うと、食べるという根源的な本能を味覚の豊かな国に住んでいる日本人の五感に訴えたのでは」と強調した。 「孤独のグルメ」は映画の舞台となった韓国をはじめ、台湾や中国でも人気の作品。「食べ物のドラマを作るということにかけては僕らのチームは非常にたけているので、海外からのオファーがあれば皆を連れてやりたい。東アジアでスタッフとともに食べ物ドラマ、映画を作るような伝道師になれたらなと思っています」とさらなるワールドワイドな展開も視野に入れている。 ◆松重豊(まつしげ・ゆたか) 1963年1月19日生まれ、福岡県出身。86年、蜷川幸雄さん主宰の劇団に入り舞台で活躍。92年、黒沢清監督の「地獄の警備員」で映画デビュー。主な出演作に映画では「しゃべれども しゃべれども」(2007年)、「ディア・ドクター」(09年)、「検察側の罪人」(18年)、「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」(19年)、「ツユクサ」(22年)、「ラストマイル」(24年)、「Cloud クラウド」(24)、「正体」(24)など。ドラマではNHK大河ドラマ「毛利元就」(97年)や「北条時宗」(01年)、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」(07年)など。FMヨコハマ「深夜の音楽食堂」でパーソナリティーを務めるなど音楽的関心の深さでも知られている。 ◆孤独のグルメ 原作・久住昌之さん、作画・谷口ジローさんによる同名漫画が原作。輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎が、営業先で訪れた土地で見つけた食事処で、独り自由に食す様子を描く作品。2012年に松重主演でテレビ東京系連続ドラマがスタートし、シーズン10までシリーズを重ね、スペシャルドラマも放送される人気作品となった。今や松重豊=井之頭五郎というほどお茶の間に浸透。映画では、日本のみならずフランスや韓国を舞台に、松重演じる五郎が〝究極のスープ探し〟の旅に出る。共演に内田有紀(49)、磯村勇斗(32)、杏(38)、オダギリジョー(48)ら。
中日スポーツ