『ポトフ 美食家と料理人』ブノワ・マジメル 演じる役と自分の共通項を見つけること【Actor’s Interview Vol.35】
美食家として知られるドダンと、彼の大胆なアイデアを料理にするウージェニー。『青いパパイヤの香り』(93)や『ノルウェイの森』(10)で知られるトラン・アン・ユン監督が、19世紀末フランスの片田舎を舞台に描いたこの2人のドラマ『ポトフ 美食家と料理人』は、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。次々と出てくる料理に目を奪われながら、ドダンとウージェニーの関係が心にしみわたる名篇だ。ウージェニーをジュリエット・ビノシュ、ドダンをブノワ・マジメルが演じている。 『ピアニスト』(01)でカンヌ国際映画祭男優賞に輝き、フランスを代表する俳優となったブノワ・マジメルに、『ポトフ』はもちろん、俳優業の喜びなどを聞いた。ジュリエット・ビノシュとはプライベートでカップルだった時期もあり、彼女との間に娘が一人いる。そんな気心の知れた相手との共演も、マジメルは淀みなく語るのであった。 『ポトフ 美食家と料理人』あらすじ 〈食〉を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー。二人が生み出した極上の料理は人々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。〈食〉の真髄を示すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは人生初の挑戦として、すべて自分の手で作る渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが ── 。
完璧な“振付”があった料理シーン
Q:『ポトフ』のドダン役をオファーされた経緯から教えてください。 マジメル:トラン・アン・ユン監督と直接話す機会がありました。ストーリー全体の概要も心に響いたのですが、何より彼の丁寧な話し方に感動してしまったのです。その後に届いた脚本を読んだところ、愛の告白もあれば、人生への賛歌も書き込まれていて、私の背中は押されました。私が演じる役を決める際、その役のポイントを掴めるかどうかが大切です。本作の場合、ドダンが妻に対して愛を語る男だと認識できました。そしてもうひとつ、この役を引き受けたポイントは、私自身も料理が大好きだから。食べるのはもちろん、作る方もですよ(笑)。やはり演じる役に関して、自分と何か共通項を見つけることは、俳優にとって重要だと思います。愛する女性のため、あるいは大好きな友人のために料理をする。そういう気持ちを通してドダンの中に自分を見出せました。 Q:料理が好きということで、たしかに料理のシーンでのあなたの動きはじつに自然です。 マジメル:経験が生かされたのでしょう。料理人というものは何回も同じ作業を繰り返していくうちに、テクニックが身につき、自然な動きになっていきます。ただ演技の場合、それ以上に本能や直感も試されます。今回のドダンの動きに対して、私は直感で応じていた気がします。私自身は料理の分野でのアーティストではありません。劇中でドダンはこんなことを言っています。「料理がうまくなるためには時間が必要だ。最高の風味を見つけるには、さらに時間がかかる」。料理経験を自慢できるほどでない私は、直感に頼って演じたわけです。 Q:ちなみにあなた自身の自慢の料理は何ですか? マジメル:セップ茸のポアレですかね。ガーリックやパセリを加えるとてもシンプルな料理ですが、材料のバランスによって味が変わるので、作る側の腕の見せどころです。 Q:『ポトフ』で料理のシーンでは、俳優たちが流れるような動きを見せています。どのように撮影されたのでしょう。 マジメル:完璧と言ってもいい“振付”がありました。カメラの位置や動きもすべて決まっていて、だいたい一日かけて綿密なリハーサルをこなし、私たち俳優には正しく動くことが要求されたのです。私はこのように、多くの人が呼吸を合わせ、協力するプロセスが大好きです。俳優と技術スタッフの心がひとつになると、美しく繊細なリズムが立ち現れるんですよ。スタッフの中には「自分たちが何とかするから、(俳優の)あなたたちは自由にやってくれ」と言う人もいます。でも私はそうではなく、一緒に動きを作りたいタイプ。そうすることで自分が演じる役の動きが本物になります。何も考えず、自由を感じられれば、俳優が役に成り切ったということ。今回の料理のシーンは、そんな感じでした。
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