口腔がんの死亡率はアメリカの倍! なのに日本人が口に意識を向けないのはなぜ? 口は生命の源である4つの理由
日本人が口をあまり意識しないのはなぜ?
健康に生きるための重要な要素が、口に集まっていると述べてきました。 しかし、口が衰えているかどうか、気にしている人は非常に少ないのが現実です。 なぜ多くの日本人は、さほど意識が向かないのでしょうか? わたしは、おそらくそこには、日本と欧米との文化の違いもあるのではないかと見ています。 わたしは欧米諸国の患者さんも診ていますが、彼ら彼女らは、とにかく口のなかをきれいに、清潔感を保つためのケアを前提にして来院されます。 「歯が真っ白ですばらしいですね!」と話しかけると、「え? 口はきれいにしてあたりまえでしょ?」というような感じなのです。 おそらく欧米諸国では、人とのコミュニケーションにおいて、にっこり笑って歯を見せる文化や価値観、行動様式があることが大きく影響しているのでしょう。 一方、日本人の患者さんの多くは、基本的にむし歯や歯周病など、すでになにかしらの症状を抱えた状態で来院されます。 もちろん、定期的に歯のクリーニングをされる患者さんも増えていますが、まだまだかなり少数派。多くはむし歯などの治療後に、「銀歯にしようか、セラミックにしようか……」と、ようやく口のなかの美しさを考えるような順番です。 これにはおそらく、日本人は「歯はあまり人に見せるものではない」「口を大きく開けて笑うのは下品」という、欧米とは真逆の文化や価値観、行動様式があることが考えられます。 古くは「お歯黒」なんて文化もあったくらいですから、日本人が口のなかをあまり意識しないのは、もともとそうした文化のなかで育った民族だからかもしれません。 わたしも知人に、「じつは歯が気になっていて診てもらわなければと思うのだけど、恥ずかしくて見られたくない……」といわれることがよくあります。 そんな感覚の違いが、日本人と欧米人とのあいだにはあるように感じます。 ただ、口に対する意識が芽生えなければ、口のなかの病気も一向によくなりません。 たとえば先に述べた口腔がん。一般社団法人口腔がん撲滅委員会のホームページによると、「アメリカの2016年の口腔がんの罹り患かん率は4万8330人と日本の約2倍ですが、死亡率は9570人で、日本の半分近くである」といいます。 アメリカでは半年に一度の口腔がん検診が義務になっているといい、一方日本では軽症の段階で来院せずに発見が遅れることが大きな要因ではないかと考えられます。 このようなことを見ても、日本人はもっと、口のなかを気にする習慣を持つことが大切だと考えます。 そこでわたしは、よく患者さんに「きちんと鏡を見て歯をみがいていますか?」と問いかけるようにしています。 すると、「え、鏡を見ながら歯をみがくのですか?」と返されることがとても多いのです。 でも、自分の口のなかをしっかり目で確認しながら歯をみがくからこそ、歯の裏側や奥歯まで歯ブラシが届いているかがわかります。 なにより、歯や歯ぐき、舌のささいな変化になどに自分で気づくことができるのです。 照山裕子 監修/來村昌紀 ---------- 照山裕子(てるやま ゆうこ) 歯学博士・東京医科歯科大学非常勤講師(顎義歯外来) 日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門医が少ない『顎顔面補綴』を専攻し、口腔がんの患者と歩んだ臨床体験から予防医学の重要性を提唱する。 「日本人の口腔ケアへの意識を変えるにはどうしたらいいのか?」という課題の答えのひとつとして考案した内容を『歯科医が考案 毒出しうがい』(アスコム)として書籍化。13万部のベストセラーとなった。現在は大学病院及び全国の歯科クリニックにて診療を続ける傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも多数出演。『日経xwoman』のオフィシャルアンバサダーも務める。『新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)など、著作多数。 ---------- ---------- 來村昌紀(らいむら まさき) らいむらクリニック院長・千葉大学臨床教授・医薬学博士・日本脳神経外科学会脳神経外科専門医 和歌山県出身、和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。和歌山県立医科大学附属病院などで、経験を積み、2014年にらいむらクリニック開設。著書に『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』(あかし出版)などがある。 ----------