露外相が北方領土の「旧敵国条項」発言 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
「旧敵国条項」の現在
憲章は2条で国連加盟国すべてに主権平等の原則を基礎としています。終戦直後で旧敵国とされる国々が加盟していなかった(というか出来るはずがなかった)時点では、旧敵国条項も意味があったでしょうが、日本が1956年に、東西ドイツは73年に、イタリアも55年に加盟しており、ずいぶん月日が経ちました。 95年には国連総会が条項を「時代遅れ」とし、早期に削除する決議を採択しています。実際に憲章を改正するには文案を明らかにした決議案が総会で3分の2以上で採択されなければなりません。たぶんこれは確実でしょう。 問題は、次の段階で安保理常任理事国を含む加盟国の3分の2が批准(国内手続きの完了)して、初めて効力を持ちます。この批准作業が大変。条項撤廃に前向きな国々も、どうせならば同じく「時代遅れ」の批判がつきまとう安保理改革と一緒にやってしまいたいと考えているようです。ところが何かと角突き合わせている常任理事5か国も、こと「常任」(永久に理事)と、それのみが持つ拒否権に関しては、一致して「我々だけで」が真意のようで遅々として進みません。 とはいえ、旧敵国条項の削除そのものは95年段階で正式に約束されているのです。それを持ち出して、北方領土問題の正当性を言い立てるロシアは(1)そもそも筋違い、(2)時代遅れ、の二重の錯誤を犯しているといわざるを得ず、菅義偉官房長官の「ロシア側の主張に根拠はないし(外相の)指摘は全くあたらない」という記者会見での反論は当然といえましょう。 ただラブロフ外相の「日本は第二次大戦の結果に疑問を付ける唯一の国」発言は、北方領土問題に限定すれば的外れなものの、「先の大戦の結果に納得していない敗戦国」と拡大解釈される言動が要人からあれば、思わぬ正当性を与えかねない毒針でもあります。条項が撤廃されてもUnited Nations原加盟国の旧敵国であったのは揺るぎない事実で、そのUnited Nationsに入った以上、多少面白くない解釈、例えば「お前は永久に国連では(条項がなくなっても)旧敵国だ」と扱われても甘受しなければならない部分があります。といって不当な差別に屈するわけにもいきません。外交の力が問われています。
■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】